pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「ank:a mirroring ape」佐藤究

Ank : a mirroring ape (講談社文庫)
京都の霊長類研究センターに送られてきた一匹のチンパンジー「アンク」。保護先がないとの理由で引き取られたアンクだったが、気まぐれに参加させた知能テストで先住チンパンジーを圧倒する能力を発揮し、皆を驚かせる。高い知能を見込まれたアンクは新たな実験の見学に向かうが、たまたま遭遇した事故をきっかけに状況は一変する。

Kindle Unlimitedのラインナップにあったので手に取ってみた。タイトルと紹介文から難解そうなイメージを受け、敬遠していた作品。予想通り難しかったが、科学的な部分の説明は理路整然となされていたし、読みづらさは感じなかった。

キーワードは自己鏡像認識。鏡に映っているのは自分だけれども、自分ではない、深く考えるとムズムズしてくるやつだ。猿が祖先と習うから知るには知っていたけれど、進化のきっかけとなるビッグバンを考える機会などなかったから、とても興味深く読めた。この方専門家じゃないのよね。いったいどれだけ勉強したのだろう。理論と理論を結びつける考察力の高さに圧倒され、何というか、執念すら感じた。

おぼろげながら理解しつつ、おもしろく読み終えた。だが気になったところもある。時系列をばらばらにした構成の序盤は、エピソード一つひとつが短いせいか集中しづらかったし、中盤からの京都各地で起こる暴動描写が私には多すぎた。余談より本編はよ。

同じ余談なら主人公にもっと肩入れできるエピソードを入れてほしかった。育成環境や科学者であることを考慮しても、人間味が薄すぎた。まあ内容から察するに、共感できるか否かは重視していない物語なのだと思う。アクションも多いし、エンタメ作品と考えれば気にならない人のほうが多数だろう。

動物が起こす事件の原因は人間であることが多いが、今作も同様であった。ひたすらアンクがかわいそうだった。せめて一時でもいいから安心させてやりたかった。生きる目的以外で他者を傷つけるのは人間だけ、悲しいね。