pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

ゲームとリアルの融合「青鬼」感想(映画)

あらすじ

新しいクラスになじむことができず、毎日を憂鬱に過ごしていた転校生のシュン。そんなシュンを杏奈は気にかけていた。2人は化け物が現れるとうわさされる〈ジェイルハウス〉の前で同級生らと出会い、運命に引きずられるがまま、不気味な洋館へと足を踏み入れてしまう。無人であるはずの屋敷内に響き渡る怪しげな物音。窓の向こう側からこちらを覗き込む血走った目玉。恐怖に駆られた高校生6人は、建物から逃げ出そうと玄関に向かうが、なぜか扉はびくとも動かない。「ねえ、もしかして私たち、閉じ込められちゃったんじゃないの?」-脱出ルートを見つけようと躍起になる彼らに、この世のものとは思えぬ巨大な青い影が忍び寄る。(パッケージより)

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簡単感想

「青鬼」という有名なフリーゲームのノベライズが原作で、ゲームとは若干内容が異なっているらしい。どちらも知らないまま視聴したが、特に問題はなかった。
 
青鬼という怪物に捕まることなく館から脱出することを目的とした原作にサスペンス要素がプラスされ、ただ逃げるだけではない意外性のある展開を楽しむことができた。時間が70分と短いこともあり、余計な寄り道もなく退屈しない。気になったのは主人公役の子の演技がつたなくて、生死をわけるピンチでも緊迫感がまったく伝わってこないこと。他の子の演技が達者だっただけに少し残念。特に卓郎役の陣内将がすばらしくて、彼の怪演があったからこそ本作は学芸会化をまぬがれていたと思う。
 
私の評価は★3。小説が児童書ということもふまえ、若年層向けのホラーと捉えれば及第点はとれるんじゃなかろうか、内臓は飛び出るけども。青鬼のデザイン自体が歪んでいるからか、邦画にしてはCGも見苦しくない。ただ物語に関して問題を感じなかったのかと言われればそうでもなく、ラストの展開では大いに混乱させられた。そのことも含めて、ネタバレしつつ考えてみたい。

 

見どころはシュン君の心の闇

上記で述べたとおり、私は原作ゲームを遊んだことも小説を見たこともない。だがスピードラン青鬼選手権実況動画を何度も見ているため、卓郎やタケシが登場することは知っている。

 
さて、簡単感想でよかったことを並べておきながら恐縮だが、早速説教を述べていきたい。
 
本作がフリーゲーム「青鬼」を元とした映画であることは先に記載の通り。そして、劇中では転校生のシュン君が「青鬼」を製作したことになっている。冒頭シーンでは河原でゲームを作るシュン君と、彼を気にかける杏奈(主人公)が青鬼を一緒にプレイをしており、杏奈が一度もクリアできたことがない様子をうかがい知ることができる。このことがラストに関わってきて視聴者を混乱の渦へと巻きこむわけなのだが、大きな要因はマイナー映画のあるあると言ってもいい。
 
脱出の仕掛けがゲーム「青鬼」とリンクしていることに気づいたシュンくんは、杏奈と共に館の謎解きを進める。次々人が消える中、視聴者は杏奈に霊能力があることとシュンくんがすでに亡き人である事実を知る。自分の正体を知ったシュン君は消え、杏奈は引き続き脱出を試みる。だが青鬼から逃げているうちに小部屋へ追い詰められ絶体絶命のピンチに。そこでシュン君の言葉を思い出し、助言の通りに行動した刹那、光とともに場面転換。杏奈は冒頭の河原に戻る。隣にはシュン君の姿、画面には「ゲームクリア」の文字。
 
私も一応隠キャのはしくれ、現代カルチャーではおなじみの異世界転生やゲーム世界への転生、「クラスでさえないぼっちの俺が異世界からきたハーフエルフのギャルにいきなり求婚されまして?!」という夢ドリームにも屁理屈を言うことなく順応するくらいの素養はある。
 
ではなぜ今作のありのままを素直に飲み込むことができないのかといえば、やはり説明不足なのだ。青鬼の存在はいいとしても、いきなりゲーム世界へ入り込ませたあげく前フリもないまま夢オチのようなエンディングにされては、いくら異世界慣れした転生者であっても安易によかったネ、よかったヨ、とはならない。現実世界を舞台にしている以上、現実と地続きの出来事である納得感を求めるのは当然である。
 
結論から申しあげると、出来上がってしまったものに四の五の言っても仕方ねえので自分でつじつまを合わせた。考えたのは2パターンで、①館の出来事は杏奈(主人公)の夢だった。②シュン君の恨みパワーが館全体に広がった。
 
①については、冒頭の河原は現実で、館に侵入する場面からは杏奈の霊能力で未ださまよっているシュン君の魂を救おうとゲーム世界(=強い思念の残る遺品)にダイブしていったのカナ~説。日ごろの様子からシュン君がこのゲームをとても大切にしていたことは知っていただろうし、ゲーム「青鬼」に彼を追い詰めた卓郎やタケシたちが登場していることもゲームを遊んだことのある杏奈は承知していたはず。
 
サイコパス卓郎が洋館で行ったシュンの死体処理は本当だが、青鬼等はあくまで架空の話。現実の卓郎と仲間たちは死んでおらず、適切な法の裁きを受けている。シュン君の無念が青鬼を動かしているとするなら、ヒロシを無視して恋心を抱いていた杏奈ちゃんに突っ走っていくのも納得できる。人畜無害そうなシュン君が実はあふれんばかりの欲望を持っていたという事実、これには脳内のオジサンが一斉に起立せざるを得なかった。
 
原作小説をチラ見したところによると、ヒロシは冷静沈着かつ頭脳明晰、転校生であるシュンの唯一の友人と呼べる存在らしい。それをなしとしてもシュン君がクラスを見渡して、誰にも忖度しない孤高のヒロシこそ主人公にふさわしい人物として登場させていたとしてもおかしくない。また①だと冒頭で館を見上げていたヒロシのシーン、卓郎たちとのやり取りシーンが謎となってくるが、これは場面同士が繋がっていない、つまり時間軸が異なっていると考えることで解消した。
 
②はもっと単純で、元々は何の変哲もない屋敷をシュンくんが負の力でお化け屋敷へと変貌させてしまった。卓郎やタケシたちはシュン君の恨みの具現化=青鬼で死亡、最後の河原シーンは気絶した杏奈の夢で、恨みを果たすことができたシュン君は無事成仏できたとさ、めでたしめでたし。
 
①のほうが誰も死なないしエモいが、自分でも無理があるなと思う。②のほうが成り行きとして自然だし、目を覚ました杏奈が直面する3人死亡の状況がどのように処理されるのか、つきつめていくほどホラーである。よって私は②解釈を採用したい。
 
洋館内がゲームとリンクしていることや青鬼がヒロシを襲わなかったことから、①②でなくとも映画の青鬼はシュン君が生み出した怪物であることは確定事項である。青鬼が襲う順番のタケシ、美香、卓郎はシュン君の怨みの強さ順なのだろう。日ごろからゲーム内で青鬼に食べさせて、うさをはらしていたんだろうね。
 
この映画の本当に怖いところは、気弱そうなシュン君が隠し持っている闇深さだと思う。彼の分身でもある青鬼の、不安感を覚える容姿や感情を殺した瞳にはいじめられっ子の心理が反映されているように見えるし、憎しみに燃えながら襲い掛かってくる姿からは理不尽ないじめに耐え続けてきたシュン君の鬱屈した怒りが見て取れる。酷評が多い作品だが見方を少し変えると背筋の寒くなる要素が現れてきておもしろい。
 
まとめであるが、肝心の内容については簡単感想に書いたことがすべてなので特筆すべき点が思い浮かばない。謎解き(スリラー)青鬼(パニック)いじめの真相(サスペンス)と短い時間で三本柱すべてを網羅しようと頑張った結果、中途半端なホラーになってしまった印象はある。いろいろ申し上げたが何も考えず眺めるのが正解の映画だと思うので、ぜひリラックスしてご視聴いただきたい。