pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

ネオ必殺仕事人「ゲキ×シネ 天號星」感想(映画)

あらすじ

元禄の時代、大江戸八百八町にある藤壺屋は仕事を斡旋する口入屋を営む裏で、依頼を受け悪党を始末する「引導屋」として暗躍していた。引導屋の元締めとして一目置かれている半兵衛だが、実は顔の怖さを買われた婿養子であり、本来の性分は気弱で温厚。表も裏も真の元締めは女房のお伊勢であった。裏稼業を一手に担う引導屋をうとましく思っている材木問屋の主人で暗殺者集団・黒刃組を率いる白浜屋真砂郎は、材木奉行・明神甲斐守忠則と手を組み、はぐれ殺し屋の宵闇銀次に半兵衛の暗殺依頼をする。嵐吹きすさぶ夜、雨宿りをする半兵衛の前に銀次が現れ、問答無用で斬りかかる。そのとき天號星の災いが二人を襲い、激しい落雷の中、半兵衛と銀次の心と体は入れ替わってしまう。


 
ゲキ×シネ20thプロジェクト第一弾として上映。
古田新太藤壺屋半兵衛 早乙女太一:宵闇銀次
早乙女友貴:人斬り朝吉 久保史緒里:神降ろしのみさき 高田聖子:渡り占いの弁天 粟根まこと:明神甲斐守忠則 山本千尋:早風のいぶき
池田成志:白浜屋真砂郎 右近健一:塩麻呂 河野まさと:与助 逆木圭一郎:玄太 村木よし子:夜叉袢纏のお伊勢
 

簡単感想

新感線での早乙女太一といえば「魅せることを熟知したキレのある剣劇アクション」がまっさきに思い浮かぶわけだが、それを半ば封印したと言ってもいい今作の役柄で、確かな演技力についても認知させられた。入れ替わりという難しい役柄ながら、半兵衛役・古田新太の動きをよく観察し、研究されたであろうことがうかがえるほど二人が重なって見えたのだ。動きだけではなく表情の変化もすばらしかった。弱気な半兵衛から銀次に戻り、みるみる目に光を宿していくシーンは圧巻。これをアップで見れるゲキシネマジありがてえ。
 
彼と朝吉役の早乙女友貴、いぶき役の山本千尋ちゃん、みさき役の久保史緒里ちゃんといった若い力が躍動していた今作。私の評価はもちろん★5。チャンバラ多めの時代劇で見ごたえのあるアクションが充実しており、中だれるシーンもなく3時間があっという間だった。私としては右近さんと山本カナコさんの歌唱をもう少し聞きたかったカナ~。性質上、どうしても役者陣の感想ばかりになってしまい恐縮だが、以下よりもうちょっとやいやい述べていく。

 

殺陣の華-新感線の刺激

AIタイトルつけたら↑を提案されたんだが、なかなかかっこいい笑 さて、新感線といえばお招きしたゲストを中心に据え、脇を団員の方が支えるスタイルであるが、今作ほどしっくりはまった舞台はそうそうないように思う。屋台骨となる団員の方々がしっかりと物語を支える中、殺陣とアクションを得意とする若手俳優たちがのびのびと暴れまわる。役割分担がきちんとなされていることにより、いつも以上にゲストを呼ぶ意味と意義を感じることができたのだ。
 
舞台の上で年齢は関係ないとはいえ、現実問題、身体がついていかなくなるのは誰にも避けることはできない。ゲキシネが20周年ということは、そういうことである。エンターテイメント活劇として劇団員でまかなうことができない要素をゲストが補うことにより完成度を高めた、それが天號星を見た素直な印象。古田さんと娘役の史緒里ちゃん、千尋ちゃんが親と子ほど年齢が離れていることもそう。血のつながりのない親子のあり方を違和感なく受け止めることができたのは、一目でわかる年齢差が実際にあったからこそだと思う。
 
そんなゲストとの関係について、作中の半兵衛のセリフに劇団としての思いを見た気がした。実子ではないみさきと義理の娘であるいぶきに「血は繋がっていなくとも親は親」と古田新太が啖呵をきるシーンがあるのだが、ここまでの物語でいろいろと考えすぎてしまった人である私は、そのセリフに劇団員であれゲストであれ、舞台に立てばみな家族という裏の意味が込められていると感じてしまったのだ、裏稼業だけに。劇中、長々入れかわっていた古田さんを一瞬元に戻したのは、この決め台詞を言わせるためとしか考えられない。
 
まあ、どの作品でもその心持ちは同じだろうし、半兵衛本人に言わせるほうが泣かせる場面の深みが増すってだけの単純な話だと思う。でもさ~今回は劇団の顔とも言える人と入れ替わる物語なんだよ。考えすぎて深読みしすぎてしまう人としては、いつか来る代替わりという文字がほんのり頭をよぎるわけ。不吉なことを言ってごめんなさいね、熱心なファンの方。でも年寄りになるとね、人間いつ何があるかわからないという言葉がとても身近なのよ。そんな心理状態の中、俺たちはみんな家族だなんて言われたらそりゃ涙もちょちょぎれまさあね。
 
そんなベテラン古田さんと入れ替わる大役を立派にこなした早乙女太一くん。彼は人一倍の努力家なのだろう、「魅せる」ことを熟知した殺陣のすばらしさは言わずもがな、半兵衛に入れ替わったときの動きが本当に見事だった。ちょっとしたクセや仕草、立ち居振る舞いに古田さんが透けて見えて、感心しきりであった。あとはやっぱり目の演技。朝吉と刃を交わしたときの狂犬の眼、弱気でやさしい半兵衛のまなざし、セリフがなくとも目を見ればどちらか分かるほど宿す光が変わるのだ。さすが15歳にして「流し目王子」と呼ばれ、艶めく視線で老若男女を惑わせただけのことはある。見てもらえればベタ褒めする理由も納得いただけると思うので、ぜひブルーレイ買ってください、はい。
 
もちろん他の俳優陣もすばらしかった。特に推したいのはいぶき役の山本千尋ちゃん。可愛い顔してアクションがえげつないの。むちゃくちゃかっこよくて、一目でファンになってしまった。あとは今作に限らず村木よし子さん演じる気風のいいおかみさんが大好きなので、お伊勢が最高だった。黒半纏を肩にかけ、ドスの効いた声でてきぱきと指示を出す女頭領の貫禄と落ち着きは、村木さんだからこその説得力。うーんほれぼれしちゃうぜ。
 
タイトルで述べたとおり物語はTV時代劇の「必殺仕事人」をモチーフとしており、悪代官の悪だくみを裏のやり方で成敗し、町の平和を守る闇家業の人間が登場する。随所に元祖を連想させる演出がなされていて、わかりやすいのは仕込み刀。引導屋の娘である千尋は背負った三味線に刀を仕込んでいるし、神降ろし堂のおこうは神楽鈴に短剣を仕込んでいる。あとは塩麻呂とおこうが与助を暗殺したシーンで紐を使っていたのは完全に京本政樹だし、引導屋が商売敵の策略で機能不全となり動けない母に変わって千尋が仕事を受けるシーンは、中村主水が仲間に仕事を請け負うか是非をうかがっていた場面を連想する。製作チームも相当楽しみながら作られたんじゃないカナ~。
 
まとめとして言いたいのは、新感線に沼らせたい友人がいるなら今作を見せればいいということ。仕事人という性質上、勧善懲悪になりそうな話に善悪が入れ替わる要素を加え、複雑な物語とした脚本が本当によく考えられている。また歌唱が多い作品だと飽きを感じてしまうこともあるのが正直な気持ちなのだが、今作は歌が少ない。ミュージカル調の舞台は苦手という人にも安心して観てもらうことができる。その減らした歌パート分に迫力のある殺陣シーンが充てられている、つまり見ごたえのあるアクションがたくさん楽しめるってことだ。アガるぞ~。