区切りをつけるということ
定期検診で、もう数年お世話になっている産婦人科を訪れた。
待合室の壁に貼られていたのは、「今年度から産科を廃止します」という一枚の通知だった。
予約しても一時間待ちは当たり前の医院だし、患者が減ったとは思えない。
ただ、出産となれば深夜の呼び出しもある。
院長先生はどう見ても私の親世代だ。
その負担を思えば産科を続けるのはもう難しいのかもしれないと、自然に思い至った。
診察の終わり際、雑談のつもりで「産科やめちゃうんですね」と声をかけた。
先生は言葉を探すように少し間を置き、「もう子供も少なくなってきたしね、どこかで区切りをつけなきゃさ」と、つぶやくように言った。
三年前、子宮筋腫の手術で入院したとき、向かいの大部屋は妊婦さんで満室だった。
けれど、それはたった一週間の切り取られた光景にすぎない。
今では、空きベッドのほうが多い日もあるのだろう。
少子化という言葉が、数字ではなく実際の風景として目に浮かんできた。
先生が医師になったのは、おそらく第二次ベビーブームの頃だ。
総合病院で常に満床の産科を見て、妊婦さんが安心して出産できる場所を増やしたい、そんな思いで開業したのではないかと勝手に想像してしまう。
姉によれば、総合病院時代の先生は「腕はいいが怖い」という評判だったらしい。
でも、ときどきベテラン看護師さんに叱られている声が聞こえてくるのだが。
声が大きくぶっきらぼうなところが、そう思われていた要因なのかもしれない。
今では親しみのあるおじいちゃんとなった先生。
不安があるときは何度も「大丈夫」と言ってくれるし、やさしいという印象しか私はない。
本当に注意が必要なときはきちんと伝えてくれるところも信頼でき、ここで手術してもらってよかったと思っている。
子どもが次々と生まれた時代から、少子化と呼ばれる時代へ。
その変化を、もっとも近い場所で見つめ続けてきた先生の心中を思うと、言葉にしがたい寂しさがこみあげる。