pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「日蝕えつきる」花村萬月

20180207の記録

日蝕えつきる (集英社文庫)

江戸時代の皆既日食があった日、同じ時刻、別々の場所でこの世を去った5人の男女が、どのように死にいたったかを綴った物語。本作の印象については、どこのレビューを見ても「暗黒小説」「残酷物語」「グロい」といった言葉が並んでいる。

著者いわく「暗黒小説というと、人物の暗い内面やトラウマを書いた物語を思い浮かべますが、私は『トラウマ』なんて曖昧なものではなく、それを引き起こした『外的要因』をきっちり描きたいんです」。
gendai.media
そもそも文庫になるまで待とうと思ったこの本をなぜ今読んだのか、付き合いで読んだ時代小説があまりにきれいすぎたからである。それとこれと何の関係があるんじゃいと自分でも思うのだが、違和感を払拭したかったんだろうね。江戸時代て衛生観念はあっても知識が間違っていたりインフラ整備もされていなかったり、実際は臭いし汚ないし悲惨な状況だったと思うのだ。人間の尊厳なんて二の次だったり貧しい人がほとんどだったり、そういう社会が未成熟であるリアルを感じたかったのだと思う。

まあそんなで、見えていない汚い部分をさらけだした時代小説を読みたくて、いてもたってもいられなくなったというわけだ。とはいえ、本作は江戸時代を舞台としているだけで、描かれているのはいつの時代にもあてはまる出来事だった。千代、吉弥、長十郎、登勢、次二、どいつもこいつも不憫なエピソードと救われない末路のサンバカーニバル、不幸がケツふりながら大名行列していたよ。

最も好きなのは、最後の次二の話。彼は過去に自分が犯した行為の贖罪として、あまんじて責めを受けていたように思う。凄惨な最後には違いないけれど、他の話と比べると死に救いがあった。岡っ引が牢に入れられたときの「ご馳走」の場面は苦手な人がいるかも。気になったら「江戸の刑罰」「ご馳走」で検索。簡単に言うと糞を使った私刑。

歌舞伎役者を目指す陰間の吉弥もね、萬月先生よう描ききったなと。ここまで徹底的に夢を手折らないと彼は死を選んでくれなかったのですか。吉弥の思いの深さを考えると、やるせないね。

短編だからか他の萬月作品よりはのめりこみはしなかったものの、憐れな最期の数々は一気に読み上げる集中力をもたらしてくれた。本書にある衆道や夜鷹の姿は江戸の裏社会の実状として多くあったと推察する。まさに体を張った仕事、命がけだったんだな。