pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

地下迷宮の恐怖「カタコンベ」感想(映画)

あらすじ

内気なヴィクトリアにとって、それは初めての海外旅行だった。ソルボンヌ大学に通う姉キャロリンは、パリへの旅が妹にとって最高の思い出になって欲しいと、到着早々にアンダーグラウンド・パーティに連れて行く。そこは何世紀もの昔に地下に張りめぐらされた巨大なカタコンベ(地下墓地)だった。強いアルコールと熱気にあてられたヴィクトリアは、パーティーの途中、会場の外へ迷い込んでしまう。”死の迷路”にたったひとり閉じ込められたヴィクトリアは、暗闇に潜む何者かの恐怖に怯えながらも、地上への出口を探しはじめる。しかし、恐怖にもがけばもがくほど次第に混乱していく彼女を待っていたのは、想像を遥かに超えた、カタコンベの恐ろしく残酷な真実だった!(パッケージより)

カタコンベ [DVD]
 

簡単感想

ほぼ明かりのない地下迷路に閉じこめられ、不安と恐怖の中、主人公が1人出口を目指すシチュエーションスリラー。実存の「カタコンブ・ド・パリ」を舞台にしたことでリアリティはあったが、明かりが懐中電灯1本のみの場面が多いため周囲がよく見えず、この場所である意味はなかった。また主人公が終始混乱しているものだから、地下墓地から連想する神秘性や墓地特有の湿気、におい、冷気といった不気味さを感じる場面もない。重ねて言うが、精神不安を描くだけならカタコンベでなくともいい。
 
私の評価は★2。面白いとか、つまらない以前に気分が悪い。この不快感が製作側の思惑通りなのだとしても、まったくしてやられたと思わない。めちゃくちゃ怒っているので、ネタバレで説教させていただく。

 

「あなたのため」という「自分のため」

簡単感想のそっけなさで、わたしがいかに怒り心頭であるか伝わるかと思う。結論から申しあげると、劇中主人公が苦しんだのは姉の仕掛けた大きなお世話が原因だった。流れを簡単にまとめる。
 
姉のはからいによりパリに遊びに来た主人公。精神安定剤を欠かすことのできない身である彼女はゆっくり休みたいと申し出たものの、姉の強硬な誘いにより到着早々地下墓地で開かれるパーティへ参加することになる。踊り疲れ、姉の仲間たちとくつろいでいる最中、パーティの主催者であるジャン・ミッシェルからアブサン(向精神作用のある強い酒)を飲まされる主人公。視界が歪み、幻惑状態の中、カタコンベに住むと噂されるヤギの仮面をつけた殺人鬼の話を聞かされる
 
やがて騒ぎを聞きつけた警察が踏み込んできて散り散りとなり、主人公は姉とカタコンベの奥へと逃げ込む。出口を探してさまよう中、噂として聞いていたヤギ面の殺人鬼と出会いパニックに。急いで姉の元へ戻ると、彼女は血を流し死んでいた。無我夢中で逃げるうち、迷路の奥深くへと迷い込んでしまう。
 
殺人鬼の住居であろう部屋で懐中電灯を手に入れさまよううち、主人公は同じく迷路で迷っていた男性・アンリと出会う。言葉が通じないながらも二人は何となく協力しながら出口を探し始めるのだが、腐った床板を踏み抜いてしまったアンリが落下し、足を負傷してしまう。意思疎通がうまくいかないこともあり、結果として主人公はアンリを殺してしまった
 
ようやく出口を見つけたものの、扉の向こうには人の姿。ヤギ面の殺人鬼やアンリのことで恐怖に支配されていた主人公は必死に逃げる。逃亡むなしくついに捕まってしまうのだが、そこにいたのは死んだはずの姉だった。
 
そして種明かし。姉が死んだこともヤギ面の殺人鬼も、ただのおふざけ。友達を脅かすことは何度も行っていて、今回のことも精神不安を持つ妹のためを思って企画したらしい。そんな冗談とは知らない主人公は、すでに取り返しのつかないことをしてしまっている。青ざめる主人公の様子を見て「まるで悲劇のヒロインね」と姉はあきれる。
 
簡単にと言いつつ長々書いてしまった。つまり長旅の疲れを残した主人公が泥だらけで泣きながら逃げまどい、傷つき不安に苛まれることになった原因は姉によるドッキリだったというわけだ。姉の言っていることは完全に強者の理論で、主人公が大変な思いをする姿をずっと見守ってきたこちらとしては怒り心頭、思いやりの欠片も反省もない姉の態度にシャイニングウイザードからの鼻フックキャメルクラッチで徹底的に恥ずかしめてやりたくなった。これはドッキリで許される範囲を逸脱した壮大なイジメである。
 
ファビュラスな叶恭子さんのお言葉に、「あなたのためを思ってという人には、自分のために生きてくださいと言葉を返しましょう」という名言がある。

やっかいであるのは「あなたのためを思って」という言葉で、他人の価値観を押し付けられることです。押し付けるという方向性をはらんでいる以上、その言葉が一見、どんなに配慮に満ちているようであったとしても、それはあくまでその方の価値観の親切さなのです。そして最もやっかいなのはそれを自分できづくことができません。

 
納得しかない。この言葉のとおり、このたびの悲劇は妹の意思を尊重することなく自分の価値観を押し付けようとした姉の責任である。それに思い至ることなく主人公を追い詰め、人格否定までする姉が不愉快極まりない。P!nk姐さん何でこんな役引き受けちゃったかな。
 
後味というより趣味の悪い映画だった。どちらかというと私も主人公側で生きてきた人間なものでね、終盤は共感疲労で見ちゃいらんなかった。願わくは、姉の最期の言葉は主人公の幻聴であってほしい。
 
あまりの怒りで内容がどうとか考えることを脳が拒否しているが、よかった点を挙げるとするなら、この映画を見て「そうだカタコンブ・ド・パリに行こう」となる人が少なからずいそうなこと。内容はどうあれ、観光業への貢献は果たしていると言える。