pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

1月の読書記録

途中までは順調だったが、ディーヴァーに手を付けてから停滞してしまった。

購入本

ほねがらみ/芦花公園

ほねがらみ (幻冬舎文庫)
恐怖度数70%。今どきホラー文芸で、ネットやメールに親しみのある世代以上にはピンとこない箇所もありそう。

他者に語らせることによって出来事に真実味を持たせる、といった話を聞いたことがあるが、今作は複数の人物から集めた情報を主人公が考察していくルポ形式で書かれており、ある種のドキュメンタリーを読む感覚で臨場感を伴った恐怖を味わうことができた。伝承や呪いといった日本的な陰湿さから意外な方向に話が進んでいくので、ミステリ好きの方も面白く読める作品かもしれない。
 

宇喜田の捨て嫁/木下昌輝

宇喜多の捨て嫁 (文春文庫)
乱世の極悪人として有名らしいが、歴史に疎い私は今作で初めて宇喜田直家を知った。こういう時代小説を読むと作家に感謝を述べたくなる。家族や家臣を愛しているからこそ情を捨て、成り上がろうとした今作の直家が実像であってほしい、そう願うほど魅力的な人として描かれていたのだ。

彼が堕ちた地獄を知ってしまえば、語り手を変え、視点を変えて綴られていく悪業の数々を、善悪で測ることなどできはしない。彼が何を考え、何を胸に抱いていたのか想像するしかないが、憎まれ、生きながら腐り果てていくことが自身への罰と受け止めていたように思う。戦国の梟雄は、ひたすらに哀しい人であった。
 

悲しみのイレーヌ/ピエール・ルメートル

悲しみのイレーヌ (文春文庫)
小島秀夫監督が熱く推していたルメートル1作目。眠る前1時間だけ、と手に取ったものの、読み始めは翻訳ものによくある細かい描写がストレスとなり、苦痛すら感じていた。それなのに、それなのに気づけば徹夜で読了していた。猟奇的な殺人事件が過去の未解決事件につながっていくミステリ部分に夢中になったのもそうなのだが、それぞれユニークな特徴を持ちながらも尊敬と信頼で繋がっているカミーユたち捜査官チームが大好きになってしまったのだ。

そんな猟奇殺人犯を追う面々に親近感がわいたころ、読者をも巻き込んだ犯罪の仕掛けが明らかとなるから、夜中にもかかわらず「うそでしょう」と思わず声がでるのだ。見事にルメートルにしてやられた。私が見てきたことは真実なのか、嘘なのか、それすら確認する間もなく物語は加速度を増し、悲しみのイレーヌへとつながる。

もちろん、続編のアレックスをすぐ手に取った。カミーユをこのまま放っておくことなどできない、という謎の使命感が生まれるほど、彼に沼ってしまったようだ。
 

その女、アレックス/ピエール・ルメートル

その女アレックス (文春文庫)
カミーユ・ヴェルーベン2作目。路上で誘拐された女性・アレックスを捜索するうち、この女は何かがおかしいと気づくカミーユたち。読者はアレックスと行動を共にし、彼女のすべてを見届けることになる。

幾重にも絡まる謎を解きほぐしていく終盤、人間の罪深さを嫌というほど見せつけられ、読了後はしばらく他の本に手をつけられなくなるほど深みに落ちてしまった。ある意味1作目より残酷だ。彼女が悲しみに満ちていた理由が明かされるたび真の加害者に鉄槌を下してほしいと思うのだが、そのあたりも現実の理不尽さが描かれていて、もどかしいやらくやしいやら。彼女の心を復讐が支配したとしても、誰にもとがめることなどできない。暗い気持ちで読み進めた最後、これまで嫌味ばかりだった判事の一言で、雲間から光が差した。何よりカミーユたちが彼女の孤独に寄り添ってくれたことが嬉しかった。
 

冬山の掟/新田次郎

冬山の掟 (文春文庫)
冬山の事故をテーマにした短編集。山に登らない私は遭難を漠然と捉えていたが、ほとんどの原因が人間側にあることに気づかされた。人物像はともかく、今作で描かれている私情にかられての無茶な行動や認知バイアスによる判断ミスは、現実とそう乖離のないことなのだろう。最後に収録されていた「雪崩」は特に印象的な話であった。これを読めただけでも今作を手に取った甲斐はあった。
 

kindle Unlimited

さいはての彼女/原田マハ

さいはての彼女 (角川文庫)
全4編からなる短編集。人生頑張りすぎてくたびれ果てたキャリアウーマンたちが、旅先の出来事を通じて息を吹き返す物語。突然の出会いにひるむことなく、絶体絶命のハプニングすら楽しむ彼女たちは、本当にたくましい。雪深い北海道へ、あるいは洗練された憧れのホテルへ、一人旅立つ彼女たちに同行した私も、楽しい旅気分を味わうことができた。読後はすがすがしい気持ちに満たされ、心の澱も流されたように思う。内容しかり、原田マハさんの親しみを感じるとてもやさしい文章には、確実にヒーリング効果があるのだ。
 

なまなりさん/中山一朗

なまなりさん (角川ホラー文庫)
実話系、ではなく著者が聞き取りを行い、小説化した実話であることを後日談で知った。自身の死後、数年にわたり一家を恐怖に陥れ、破滅させるほどの呪詛を残した沙代子さん。よく気が利く古風な大和撫子は仮の姿で、腹の底には双子姉妹より恐ろしい澱みを抱いていたのだと想像できる。また、沙代子さんの依り代となった妹と健治が添い遂げたことにも、彼女の強い執念を感じてならない。呪詛より何より、沙代子さんが最も怖かった。
 

恋にいたる病/斜線堂 有紀

恋に至る病 (メディアワークス文庫)
佳境に入る終盤までが長すぎて、読み進めるのが大変だった。青春小説は苦手なのだ。同じような方はエピローグまでざっと読んで、再度読み直すといいかもしれない。

思い返せば寄河景は精神病質者(魅力的な人間、他人に対して共感しない、嘘をつく、良心がない)そのものであった。サイコパスと書いているレビューを見ているにも関わらず終盤までそのことを思い出させない巧みな物語運びに、著者の筆力を実感した。読後の判断は読者に委ねられていたが、愛は確かにあったのだと思う。ただ、それを正常に機能させられないのがサイコパスであり、景の愛の形は常人が理解できるものではない。永遠に癒えることのない病に侵された宮嶺が憐れであった。
 

夜半獣/花村萬月

夜半獣 (文芸書)
偶然乗った電車で槇ノ原という地に迷い込んだ青年・省悟の一人称で描かれている。読んだ感じは文学臭の抜けないライト文芸といったところ。表紙でふるいにかけられそうなので、文庫化するならエンタメ作品だと一目でわかるイラストにしたほうが手に取る人は増えそう。

内容はぼくの考えた、ぼくが主人公の異世界転移ハーレム(R18)である。著者の見た夢を小説化した、しかも省悟がまんま惟朔(自伝的小説の主人公)ということもあり、嫌悪感に襲われる場面はそれなりにあった。作風の変化を残念に思っていたところで惟朔に会えたのは嬉しかったけれども、20代の若者が「孕ませる」ていうえげつない言葉を笑顔で言うのはアウトだとおばちゃん思うのよ。