pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「革命前夜」須賀しのぶ

革命前夜 (文春文庫)

12月に買った本読み終わった。初読の作家さんということもあり、朝井リョウのあとがきから読み始める。音楽表現の巧みさを褒めちぎっていたので注目してみたが、確かにしゅごい。元々音楽を学ばれていた方なのだろうか、楽曲解釈の鋭さに驚いた。著者の豊かな感性と確かな知識による説明は音を情景として脳内に浮かび上がらせ、強弱くらいでしか違いを判別できないド素人の私でも楽曲が持つイメージを実感を伴って感じることができた。彼らが身を置いている世界はこんなにも豊穣なのか。

ニュースでベルリンの壁が崩壊したと聞いたとき、私はその重大さに少しも気づくことなく、そのままの意味でしか捉えていなかった。なぜ壁があったかなど考えたこともなかった。東西ドイツの分断がどのような状況であったのか、この作品ではじめて知ることができた。簡単に言うと、現代の北朝鮮と韓国である。勉強とすると難儀だがエンターテイメントだとすんなり入ってくるんだよな史実ってやつは。こういう作品は興味関心のきっかけとして学習図書に入れてもいいんじゃない。

多方面から俯瞰して描かれた東ドイツは確かに悪であった、だけど、それだけではないこともきちんと描かれていた。主人公を日本人としたのは読者に共感を持たせるねらいがあったのかもしれないが、思考に偏りなく中立の立場で伝えたいという思いもあったのだろう。西への亡命に歯止めが利かなくなった終盤、東ドイツ政府を糾弾していた組織が亡命を止めるよう動く場面は、すごくリアリティを感じた。愛する国のため政府に異議を唱えつつも残る人々、政府に歯向かうことはせず無言のまま国を捨てていく人々、国家と人について考える場面だった。それと、ドイツが音楽の国であることも初めて知った。音楽と聞くとパンピーの私は、お隣のオーストリアをまず思い浮かべてしまうんだ。

登場人物はね、シュウジ以外好き。主人公だけ好きじゃないという笑 日本人らしい行動や思考には同意できたが、あまりに子供。精神的に成熟している外国人の中にいるからなおのことそれが際立って、好感を持てなかった。


ベルリンの壁崩壊が1989年、いまシュウジが生きていれば57歳だ。かつてベルリンの壁を監視していた人が、当時を懐かしむ動画を見たことがある。すべては過去の話なのだ。イェンツ、ヴェンツェル、ガビィ、李、ニェット、シュウジ、激動のさなかに出会い、時代に翻弄された彼らのわだかまりも、時と共に風化していることを願う。