pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「骨餓身峠死人葛」野坂昭如

このアンソロジー収録の一作を読了。
幻想小説名作選 (1979年) (集英社文庫―日本名作シリーズ〈3〉)
◇骨餓身峠死人葛(ほねがみとうげほとけかずら)/野坂昭如
場所は九州、入海を眺める丘陵のもっとも峻嶮(しゅんけん)な峠を人呼んで骨餓身。その直下にある上水道水源地に、あらたな水源から水を引く工事の竣工式の日、市長が骨餓身の奥にある炭鉱跡地に「葛作造」と記されている石柱を見つけた。そこから大正初期の炭鉱で起こった奇怪な事件が回想されていく。

順風満帆だった葛炭鉱の影でひっそりと芽吹く、作造の娘・たかをの魔性。遺体を糧とし、可憐な花を咲かせる死人葛に異常な執着をみせる彼女の切望に抗うことができず、その体に溺れ、死人葛を増やしていく兄・節夫。そして、出奔した妻への疑惑を免罪符に娘を肉欲の対象とした父・作造。

葛家の狂気が伝染したのか、飢えに任せて食してしまった死人葛に魅入られたのか、葛炭鉱に集まった人々は廃鉱となったのちも山を下りることなく、死人葛の実にすがり生きることを選択する。
殺すために犯し産む、死人葛を絶えさせないために。
誰一人違和感を覚えることなく続けられた異常な営みは、ある出来事により破綻をきたし、集落は破滅へと向かうのだった。

 

興味をもったものの独特の文体で読み進めるのを断念された方もおられるかと思い、あらすじをたくさん書いてみた。

なんて貧しくて不潔で不道徳極まりない物語なのだろう、つまり大好きだわ。花村萬月センセとか平山夢明センセが好きと言うくらいだから陰性と思ってはいたが、ここまでインモラルな話だとは、想像以上だった。なぜこの生臭い話が幻想小説のアンソロジーに集録されたのか不思議だったが、読み終わってみればなるほど、耽美で不穏な余韻が残るね。

舞台となった炭鉱についても、声を大にして語られないであろう労働の過酷な現実が描かれており、とても興味深く読めた。危険なところにこそ使えない新入りが送り込まれる、もちろん死ぬけど運び出す順番は炭のあと、労働組合何それおいしいのって、こういうことを知ると日本も優しい国になったもんだと思う。

炭鉱事業の盛衰については、補完として以下の記事もよろしければ。
bunshun.jp
ずいぶん前から読み始め、場面が映像として頭に浮かばず何度も挫折を繰り返し、この度やっと読了できた。そそ、私も断念組なのよ。なかなか読み進められない私と同じくな方は、野坂氏の美学に慣れることから始めるといいよ。高畑 勲監督の映画「火垂るの墓」を見たのちに原作を読んでほしい。映像が先に入っていると言葉も入っていきやすい。