pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

トライアングル会話劇「JUDGEMENT」感想(映画)

あらすじ

目覚めると、そこは見知らぬ場所・・・。手には鎖が繋がれている。意識もおぼろげな元ボクサーの町村の前には、かつての後輩、的場が現れる。状況も理解できないまま、鎖を外そうと躍起になる二人の前にまた一人の男が現れる。町村の現役時代のライバル、牛島だった。その刹那、無機質な女の声が響き渡る。「町村さん、どちらかを選んでください。いらない方を殺してください。」戸惑い、混乱する町村。自分がどれだけ町村に必要だったか必死に訴える的場と牛島。やらなければ、自分が・・・。追い込まれた町村は、遂に究極のJUDGEMNT(選択)をする。だが、それは、想像を絶する悪夢のほんの始まりにすぎなかった・・・。(amazonより)

JUDGEMENT ジャッジメント
 

簡単感想

一つの空間だけで物語が完結するソリッドシチュエーション・スリラー。主人公が過去に関わったことのある人物が次々現れ、謎の声から2者択一を迫られる中、会話を続けるうちに人間の持つ醜い欲望やエゴイズムが顔を見せ始める。娯楽性は低く、あらすじやパッケージから想像する派手なスプラッタやアクションはない。つまり言葉がこの映画の全てであるわけだが、音響が悪いのか役者が何を言っているのか結構な頻度で聞きとれず、何度も巻き戻して聞き直さなければならなかった。
 
1時間弱ストレスフルのまま何とか鑑賞し終え、主人公の印象が2転、3転する物語自体は悪くないことがわかった。だが致命的な問題をカバーするほどの唯一無二感はなく、私の評価は★2。映画というより舞台劇を見ている感覚に近かったので、媒体が違えば評価が変わるポテンシャルはある。おすすめする視聴層は考察するのが好きな方。陳腐だナーと思いつつ最後までちゃんと見たので、この苦行を味わいたくない方のためにネタバレで内容に触れていきたい。

 

大事なほうを残すという選択

登場人物は全部で8名。まずは付き人として町村を献身的に支えてきた的場。ボクサー全盛期の町村が派手に遊んでいた女の中には的場の彼女もいたが、それも観て見ぬふりをするほど盲目的に従順を貫いてきた。2番目は元ライバルの牛島。牛島は町村が試合中に行った目元へのヒジ打ちが原因で引退に追い込まれているが、子どもが生まれたこともあり踏ん切りをつけるきっかけをくれた町村に感謝すら覚えている。
 
次に登場するのが、町村が所属していたジムの会長・フルイチさん。ただのチンピラだった町村を一流のボクサーへと育て上げ、ベルトまで獲得させた一方、ファイトマネーを使いこみ利益を得ていたり、ボクシングに集中させるため女と別れるよう言いくるめたりしていた。
 
4人目はその元カノが登場。町村に振られた後も恨むようなことはせず、ひたすら町村のことを想い続けていた。5人目はモテモテの町村が35年の人生で唯一フラれた女性・アユミ。一回だけ身体を重ねたことがあるものの、ナルシストぎみの町村にうんざりし、10年前電話1本で別れ話を済ませた。
 
6人目は町村が知らない女性・ナナコが現れる。彼女はアユミの子であることがすぐわかるのだが、明らかに中学生以上の姿をしており町村の娘でないことは明らかだった。その後、的場とアユミの子であることが判明する。
 
7人目はカオリという白いドレスの女性。町村との間に生まれた息子・タクミを殺害し、刑務所に入っていた。
 
そして、8人目として息子のタクミが現れる。
 
これまでの人生で深く関わってきた人物たちと会話する中、隠してきた内面をえぐりだされていく町村。5人目のアユミあたりから醜悪な自我を抑えきれなくなり、「ヒイヒイ言わせてやっただろうが」とか「俺の奴隷になれ」とかフランス書院でしか見かけないような言葉を平気で言うようになる。冒頭、天の声から的場を好きかと聞かれて「大好きだよ」と答えた町村に腐った期待をした私としては大いに落胆した場面でもあるが、気の強いアユミとの舌戦はなかなかに見ごたえがあった。
 
なぜ町村が選ぶ者としてこの場に呼ばれたのか、なぜみんな現状をすぐ受け入れ、かつ町村を殺そうとしないのか、なぜ7人目のカオリだけ美しいドレス姿で現れたのか、なぜ町村以外の人間の顔色がすぐれないのか、8人目のタクミが現れたことにより、ほんのりと答えを得ることができた。
 
「お前らがいたからパパがダメになったんだ」「パパがチャンピオンなんかにならなかったら、こんなことをしなくてもよかったのに」「上はつまんないよ、こっちにきてパパ。ぼくを選んでくれたら一緒に暮らせるって神様が言ってた」
 
このあとタクミから「僕を選んで」と言われた町村が「どうやって死ねばいい?」と問いかけたことから、ここまで見てきたことは町村という男の内面を視覚化していたのカナーと気づいた。現実ではなく内省的なこととして見れば、いろいろな違和感が消える。あくまで推測だが、タクミという生き甲斐を失った町村が死を選択するまでの道のりを見せられていたのではなかろうか。
 
絶望に苛まれ死が頭をよぎるものの、10年前の栄光を忘れることができず心の奥底では再起の夢を捨てきれていない。腕を縛り付ける鎖は執着や未練の象徴であり、ボクシングに関わる様々な過去を消去し続けながら最後に残ったボクサーの命と息子、どちらを選ぶのかという話。
 
こうやって書きながら思い返しても悪い話では本当になくて、簡単感想でも述べたとおり舞台劇であればもっといい評価を得られた作品だと思う。忍耐が大いに必要だが短い映画なのでね、気になった方はご飯を食べながらでも見てみてください。エンドロール後の映像もお見逃しなく。