pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

月の崩壊を阻止せよ!「アルマゲドン2007」感想(映画)

あらすじ

太陽系を漂う小惑星が月に衝突。隕石が地球に降り注ぎ、深刻な被害が発生した。衝突により月面に巨大な亀裂が走り、重力に引き寄せられた破片が地球に殺到しているのだ。月の崩壊を阻止しなければ、地球は生物の棲めない死の惑星と化してしまう!!破滅を回避する方法ただ一つ。電磁波を発生させる特殊爆弾を月の亀裂で爆発させ、強大な時期で月を”溶接”するしかない。猛烈なハリケーンの中、スペースシャトルは決死の打ち上げを敢行。男たちは限りなく不可能なミッションに挑むが・・・・・・。(パッケージより)

アルマゲドン2007 [DVD]
 
B級SFも1990年代の名作「アルマゲドン」の文字をつければ何らかの興味を引くだろうという正しいマーケティング戦略で生まれたシリーズの1作目。ついでにどれだけ出ているのか調べてみたら、枝葉を伸ばしながら2024年まで続いており、レンタル店にずらりと並ぶ姿には老舗の貫禄すら感じる。「シン・アルマゲドン」には笑ってしまったが、「シン・」がついているだけで見なければと暗示にかけられてしまう私のような人間もいるのだから、考えた人は天才。
 

簡単感想

原題は「Earthstorm」。隕石が地球に落ちてくるのを阻止するため、爆破のスペシャリストが宇宙船に乗って解決に行くお話。邦題をつけた人は思ったんだろうね、こりゃアルマゲドンだと。確かに本家アルマゲドンの影響を濃く受けていることがわかるアルマゲドンだった。ただし非常に慎ましいアルマゲドンで、登場人物は最小限だし物語も一本道でとてもわかりやすい。CGはちゃちだがWikiによるとアメリカのテレビ映画らしいので、劇場映画並みの予算がとれないのも仕方がない。
 
私の評価は★3。不安になる場面もなく、肩の力を抜いて楽しめる作品だった。ご家族で安心して視聴できるところは本家越えしているので、以下では小さなお子さんと一緒に見ることを念頭に、どうしてそのように思ったのかポイントを絞って述べていきたい。

 

誰も死なないアルマゲドン

まず、スケベがない。本家アルマゲドンを思い出してほしい。冒頭から主人公であるハリーの娘・グレースは、スタッフの一人であるA.Jのベッドで半裸という問題行動を起こしていた。惜しげもなく柔肌をさらすアメリカ娘の奔放シーンに大和撫子しか見たことがない日本のお茶の間は空気が張り詰める事態となったわけだが、今作には海外作品において最低一回は組み込まれている濃密なラブシーンが一切ない。これは家族での視聴において安心みが深すぎる。ラストに少しだけキスシーンはあるが遠方から、かつ4人で話している場面で、いやらしさはまったく感じない。
 
本編にもラブロマンスの要素がまったくないので、もしかしたらお子さんから「いつの間にそのようなご関係に?」という質問は出てくるかもしれない。そのときは「CM時間中に仲良くなっていたのだよ」、つまり遠回しに「察しろ」と伝えておけば妄想力を高める訓練にもなっていいだろう。
 
続いて、根っからの悪人がいない。月の崩壊を止めるための話し合いがまとまる中、その仮説に異議を唱える者も当然出てくる。本プロジェクトの中心人物であるラナと因縁のあるビクターだ。彼は天王星の衛星「ミランダ」の事例を挙げ、何もせずとも月は自然と元に戻るという説をかたくなに譲ろうとしなかった。地球存亡の危機に何してけつかると思われるだろうが、世の中には優秀すぎて自分の正しさを疑えない人間もいるのだ。
 
のちほどラナの仮説が正しいことが証明され、これまで強く自説を信じていたビクターは呆然自失となる。だが即座に自らの過ちを認め、腐ることなくラナたちの支援へと回り、その優秀な頭脳でもってプロジェクトを成功へ導く立役者となったのである。
 
かつてエイブラハム・リンカーンは言った、「あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ち上がることに関心があるのだ」と。まさに今作のビクターである。ミスをしたあとどのように行動すべきであるかの手本を、アルマゲドン2007は非情に分かりやすく示してくれた。
 
三つめは、誰も死なない。ここでまた本家アルマゲドンを引き合いに出すと、自己犠牲の精神で小惑星に残ったハリーを筆頭に、墜落の衝撃だったり最悪のパターンだと宇宙空間へ吹き飛んでしまったり、数名がご冥福をお祈りする事態となっている。華々しいミッション成功の裏には、深い悲しみが残された。その点、今作はみんな生きている。そもそも宇宙にメインパイロット、サブパイロット、ジョン(主人公)の3人しか行かないので減らしようがない
 
もしかしたら地球滅亡の危機にあって誰も死なないのはドラマ不足ではないか、と思われる方がいるかもしれない。安心してほしい。そこは月到着前からサブを昏倒させることにより担保されていた。多数の隕石の欠片が漂う月において一人は運転に専念、一人はダウン、つまりミッション実行者はジョン一人である
 
・・・オーケイ、皆さんが言いたいことはよくわかる。だが、思い出してほしい。ジョンはどんな困難な仕事もやり遂げてきた経験と実績のある爆破のプロだ。お子さんには信じる心の大切さをぜひ説いてもらいたい。
 
四つ目は、血が流れない。三つ目に関連する事項であるが大切なことなので別事項として述べていきたい。このような危機的状況に陥った際のパターンとして、地球では隕石の影響による天候被害や災害事故、宇宙船内では極度の精神不安による争いが起こりがちである。後者については上記に述べた通り実質2人しかいないうえ、現地に到着してからの急なプラン変更もあり、それぞれ手いっぱいで争っている暇などない。
 
前者については隕石の影響による嵐が威力を増す中、このことによる一般市民への影響が懸念されるところだったが、誰一人救急車で運ばれるような事態にはならなかった。予算の都合でエキストラを雇えなかったということではなく、おそらく大統領より緊急放送で避難が呼びかけられていたに違いない。
 
唯一、ビル解体中で放送を聞きそびれたジョンの仲間たちが消息を絶つことになるのだが、その後ケガ一つなくぴんしゃんした姿で現れるので痛そうとか辛そう、といったマイナスの感情を抱くような場面はなかった。残酷なシーンがないことは大きなおすすめポイントだ。
 
最後は、登場人物が少ない。先日見たロシア映画「プロジェクト:ジェミニ」回でも申し上げたのだが、海外の慣れない名前と顔を一致させるのは意外と大変。人物を認識できないままだと当然物語に集中できず、途中で見飽きてしまう恐れもある。この規模の作品であれば、両手で足りるくらいの人数できりもりしてもらったほうが逆にありがたいと言える。
 
以上、おすすめポイントを5つご紹介した。善悪のタガが外れた映画が多い昨今において、地球の絶対的危機なのに平和を感じるすてきな物語が製作されていたことを嬉しく思っている。現在Youtubeで無料公開されているので、ぜひご視聴いただきたい。