pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

ぼく地球「プロジェクト:ジェミニ」感想

あらすじ

植物ウイルスが蔓延し、生態系が破壊されつつある未来の地球。人類は8年前に発掘された地球外物質「球体(スフィア)」と「機関(エンジン)」を利用し、移住可能な惑星「TESS」の存在をつきとめた。テスを第二の地球に変える“ジェミニ計画”が発動され、計画の主導者であるスティーブたち先発隊は宇宙船へと乗り込んでいく。太陽系外へ向けワープを開始する宇宙船。だが謎のトラブルが発生し、彼らは予想外の地点へと到着する。

プロジェクト:ジェミニ(字幕版)

簡単感想

かつての宇宙大国ロシア産ということもあり、悪くない物語だった。何番煎じながら、地球外物質が地球に存在する理由、ジェミニ計画に隠されたスフィアの真の目的、仲間への不信といったスリラー要素にエイリアンとの駆け引きというアクション要素が加わって、バランスのとれた内容だったと思う。エンディングには素直に感動したし、VFXもきれい。

私の評価は★3.5。ラストの仕掛けは絶対ネタバレ厳禁。フツーに書いているレビューが散見されるので、前情報なしで見たほうがいい。本記事でも最後のほうでネタバレするのでご注意を。

 

ラストに壮大な仕掛け

地球が滅びの道をたどるSFはこれまでもいくつかあった。隕石が衝突したりエイリアンが攻めてきたり、もっと現実的なものだと太陽のエネルギーが弱まることによって地球の気温が下がり動植物の活動に悪影響を及ぼす、なんてものもある。この作品もどちらかというと後者の部類で、植物の伝染病が広がったことにより森林が激減、光合成が間に合わず、このままだといずれ窒息するという状況となっている。
 
設定に無理もなくロシアSFが好きな私としては肯定的に見ることができたが、世間の評価はけっこう厳しい。確かに「おや?」と思う箇所はあったが、筋道はきちんとしているし、適当につじつまを合わせれば言うほどヘンテコなSFでもない。
 
ハリウッド並みのクオリティを期待してしまうほど映像が立派だから、信頼を裏切られた気持ちになるのはわかる。問題の多くは脚本由来で、何にせよ説明不足で描写足らず。一つあげるとすると、ジェミニ計画に異常な執着を持っているスティーブが命令を無視して行動を続けるところ。隠している秘密があるのかと思いきや、わからない。仲間や恋人が「あなたは英雄になりたいだけ」と言うのだが、それを認めるような表情も仕草もエピソードも何もない。あえて敵をつくるような態度を続けたり怪しい回想が入ったり、いろいろ含みを持たせておきながら最後まで疑問は晴れなかった。これは察するのが得意な日本人であっても無理ゲー。
 
マイナー映画を見続けて気づいたのは、説明のうまさが一流と二流を分ける境界線となること。それができていないクソ映画やおしい映画がマイナー作品の中には非情に多い。もちろん元々B級を意識している作品は除くわけだが、ハリウッドが抱える脚本家はそういう意味でやっぱり格が違う。言うは易し行うは難しとはいえ、物語の紡ぎ手として説明責任を放棄しないよう努めてもらえると見ている側としてはありがたい。
 
さて、あとは物語のつじつまなどどうでもよくなるほどの、のっぴきならない深刻な問題について述べていく。
 
それは顔の見分けがつかないことである。登場人物が画面に複数うつる作品において、服装で個性を出したり性別や人種を雑多にしたりする工夫を、世間では「配慮」と言う。今作のメインキャストは平凡な白人の男性複数人と、黒人の女性1人である。こういうところを何も考えないでキャスティングするからお母さんに怒られる。せめて男を黒人にするだろう、この男女比率なら。おまけにハゲなし、チビなし、デブなし、年の差ほぼなしという、身体的特徴もない。近未来だけにクローンと言われても不思議はない。
 
加えて画面が暗いものだから、ますます見分けがつかなくなる。合わせて外国人なものだから余計に顔と名前が一致しない。エイリアンが襲ってくる場面になると生命維持装置で顔半分が隠れて、もはや全員モブ。誰が死んで、誰が生きているのか、途中からはどうでもよくなった。
 
もう一つ、深刻な問題が余計な尺かせぎ。正体の分からないエイリアンとの追いかけっこが2回ある。正直、突発的なトラブルに過ぎないので、さほど重要ではない。2回あるにもかかわらずエイリアンの全身が見えるシーンはなく、落ちた破片のちゃちさを見て「予算の都合だな」と気づかざるを得なかった。それなら早々に切り上げて他の説明に時間を割いてくれたほうがありがたかった。よく撮れたシーンであっても客観的に見て不要と判断したらいさぎよく諦める、捨てる勇気もクリエイターには必要な素養だと思う。
 
ああ、内容に深く触れることができないと、すぐ愚痴しかでてこなくなる。よかった探しマイスターの名を返上しろと言われても仕方のないていたらくで申し訳ない。まとめとしては、満足度の高い映像美と壮大なスケールが魅力のSFなので、細けえことは気にせず世界に没頭して楽しもう。自分たちは長い宇宙の歴史の中の、ほんの一部でしかないちっぽけな存在なのだと実感する物語でした。
 
最後に、タイトルにひっかかった方へ。まったく関係ない内容で申し訳ない。この先ラストに触れながら言い訳するので許してほしい。
 
 
目的地ではない座標に到着した宇宙船は、どこにたどり着いたのか、それは40億年前の地球だった。つまり本船はワープではなくタイムトラベルをしていた。スフィアの真の目的は「地球の植民地化」で、過去の設置段階で何らかのトラブルがあり予定通りに作動しなかったスフィアを、今度こそ正しく機能させようと行先を勝手に軌道修正したものと思われる。理由はどうあれ過去に戻った彼らが正しくスフィアを設置しなければ地球の未来が消失する、ということで40億年前の地球で頑張るわけ。冷静に考えるとスフィアの元々持ち主が設置しに来るんじゃね、と思うのだが細けえことは気にすんな。
 
スフィアを無事に設置はしたものの、最後に残ったのは宇宙空間で本艦を守っていたリチャードだけだった。たった一人残された彼は元の時代に戻ることもできず、宇宙から青い惑星を孤独に見守る。「この地は主の慈しみに満ちています。どうか私のことを憐れみ、生きながらえさせてください」と。その映像が「ぼく地球」していたのだ。長々と申し訳ない。