pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

熱演に拍手「デューンサバイバー 砂の惑星」感想

あらすじ

遥か未来、壊滅的な宇宙戦闘の後、墜落した戦闘機パイロット・アドレルと相棒のヘイゼルは、未知の惑星に不時着する。生命維持装置のリミットは48時間。装置が切れる前にアドレルは重傷を負ったヘイゼルとともに、荒涼とした惑星に潜む脅威と戦いながらサバイバルすることを余儀なくされる。(パッケージより)

デューン・ サバイバー 砂の惑星 [DVD]

 
注:「DUNE/デューン 砂の惑星」の話ではありません。
 

簡単感想

冒頭の戦闘シーンは退屈だったものの、惑星に不時着してから脱出までの人間ドラマは及第点以上。主演であるフィービーとデイジー・エイトケンスの高い演技力で予算の不足分を十分補っており、心動かされる場面もちゃんとあった。一人芝居が中心の物語なので、序盤の仲間の顔は覚えなくていい。30分もすれば減る。

私の評価は★3.5。マイナー映画としてはよくできているほうなのに世間の評価が低めなのは、注目をあびるべくハリウッド映画に乗っかったことで、かえって比べられ不評を招いてしまったのかもしれない。このまま埋もれていくのもしのびないので、応援の意味も込めてよかった点を中心にヤジを飛ばしていきたい。

 

俳優陣の演技力がすべてを支えている

密林の作品紹介で「監督は超低予算映画『コリン LOVE OF THE DEAD』で注目されたマーク・プライス! SF映画への愛と情熱が比類なき異世界を作り上げた!」とあるとおり、今作は低予算映画の匠によるお仕事で、CGや衣装、小道具は一目でハンドメイドと気づくくらいちゃちい。つまりあとに続く「精緻にデザインされた宇宙船を駆使した迫力の戦闘シーン、リアルな宇宙飛行士の装備、不気味な異性生物の造形と、低予算を感じさせない凝りに凝った世界観」は全て自虐である。
 
堂々と金がねえ宣言をするのもどうかと思うのだが、諸事情ご賢察のうえ映像には期待しないでという心構えをさせる粋なはからい、と前向きに捉えた。クソ映画しか見ていない私の脳は「最新型のハイテク装備だから薄くても安心」という思い込みを難なく受け入れたものの、そうでない方はナプキンじゃあるまいし説得力がなさすぎると本題へ入る前に停止ボタンを押してしまう恐れがある。そう考えると三手先を読む捨て身のマーケティング戦略として効果バツグンだ。
 
だが内容からするに、映像の良し悪しは大した問題ではないと感じる。名も知らぬ惑星に一人取り残された主人公が、迫りくる死に抗いながら力を尽くす人間ドラマがよくできているからだ。何なら最初の戦闘シーン30分は飛ばしても差し支えないので早送りしていい。
 
宇宙で最も恐ろしいことは何かと問われれば、やはり一人取り残されることだと私は考える。人間一人で生きられるというのは安全地帯である地球の陸地に限った話で、広大な宇宙空間で一人になることは即ち死の宣告だ。たまには田中啓文の「嘔吐した宇宙飛行士※」のようにセルフリサイクルで生き延びる人もいるようだが、大体の人は不可能と思われる。(※汚い話を笑い飛ばせるようであれば「銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)」に収録されているので興味ある方はぜひどうぞ)
 
そういえば、つい今しがた飛ばしていいと申し上げた冒頭でもその点では見逃せない場面があった。撃墜されコントロールを失い、明後日の方向に戦闘機が消えていくシーンだ。置いていかないで、と泣き叫ぶクルーの通信を受けるも味方はみな戦闘中で、離れていく機影をただ見ていることしかできない。はるか虚空へと消えていく彼らの今後を想像して紳士のみならず淑女もタマヒュンするだろう。
 
予告でも半分ほど尺をとっている戦闘シーン。そんなに推すならなぜもっと金をかけなかった。

 
今作における作品の質の担保としては、俳優陣の演技力があげられる。生命維持装置のリミットと完全な孤独という2重の恐怖に怯えながらもベストを尽くそうとする主人公。その奮闘を演じきったフィービー・スパロウの、孤立した現状に震え絶望する表情、全身で体力の限界を表しながら歩く姿、顔がチゲ鍋の敵軍と交戦する勇ましさ、すべてが真に迫る演技で絶賛に値する。
 
パートナーであるヘイゼル役デイジー・エイトケンスの死に際の演技も鳥肌ものだ。これね、実際こうなるんですよマジで。祖父の死に際を見た私が言うのだから間違いない。また二人のやり取りが終盤につながってくるのもアツい。ぜひ映像の素朴さに引きずられず俳優の底力に注目していただきたい。
 
装備はチープだがホログラムからテントを設営し、CO2を生成する夢のような装置を使うなど世界観はきちんとSFしている。敵方のスーツが異常に強固で人間側の銃がまったく貫通しないのも、地球より進んだ文明であれば説明がつく。主人公もちゃっかり敵が使っていた銃をお土産に持って帰っていたし、彼女が帰還したのちは技術革新が起こり、劣勢だった宇宙戦争の行く末も変わるに違いない。
 
物足りなかった点は未知の惑星に不時着したにもかかわらず、大気以外は地球環境と大して変わらなかったところ。例えば「インターステラー」のように時間の進み方が異なるとか、「三体」のように太陽が3つあるとか、そういった惑星の独自設定があったらもっと楽しいサバゲーになっていたんじゃないカナーと思う。
 
さて、ぼやぼやとしたことしか書けない体たらくで申し訳ないが、何となくでもいいから「そう悪くない映画」だと伝わっただろうか。タイトルからして全編面白い映画でないことは察してほしい。激しい感動はないものの、確実に心は動かされるから細かいことは気にせずご視聴いただきたい。