pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

やんのか!「S.A.S 特殊空挺部隊 史上最悪の極秘空輸ミッション」感想

あらすじ

かつて敵から”怪物”と恐れられた伝説の特殊空挺部隊員ジョン。超人的パワーと戦闘能力でその名を轟かせた彼だったが、ある事件をきっかけに引退していた。そんな中、かつての仲間から依頼が舞い込む。アジトに潜伏する犯罪王ティーグを生け捕りにし、空路で移送して投獄する極秘任務だ。ティーグは数年前ジョンの情感だったが、東欧での任務中に部隊を裏切って大勢を死なせた男だ。ジョンはティーグへの復讐を果たすべく依頼を受ける。作戦のリーダーとなったジョンに与えられたのはたった2人の衛兵シャビロとリンチ。精鋭部隊に守られた敵地にどう潜入し、どう攻略するのか? ジョンは想像を絶する戦闘準備を始めるのだった。(パッケージより)

S.A.S 特殊空挺部隊 史上最悪の極秘空輸ミッション(吹替版)

 

簡単感想

主役であるスチュアート・ベネットは元プロレスラーで、WWEインターコンチネンタル王座に輝くなど人気レスラーとして活躍してきた方らしい。物語の中身はあってないようなものだったので、日本にもよくある主役タレントを愛でるための映画なのかなと思った。

見どころは女性陣の格闘シーン。スタント出身のカタリナ・ダーデンと体育会系女子(検索しても経歴がよくわからなかった)フィービー・ロビンソン=ガルヴィンの鮮やかな身のこなしで魅せるアクションは、男性陣のもっさりした演技でうとうとしかけていた私に目の覚めるような往復ビンタをかましてきた。

そんな彼女たちに敬意を表して、評価は★2.8。ここで言うS.A.Sは特殊部隊ではなく「そういう名前の民間組織」という認識でいると、比較的穏やかな心で見守ることができる。

おじいちゃんと追いかけっこ

S.A.Sは特殊空挺部隊(Special Air Service)の略で、空軍をイメージするが実際は陸軍である。現在の各国に置かれている特殊部隊の手本となった由緒正しい歴史を持ち、元部隊員が書いたノンフィクション小説を読むと部隊員たちが過酷な選抜試験を耐え抜いたエリート中のエリートであることがわかる。
SAS戦闘員 上: 最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録 (ハヤカワ・ノンフィクション 239)SAS戦闘員 下: 最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録 (ハヤカワ・ノンフィクション 240)
 
そのような予習を済ませたうえで視聴を始めたわけであるが、最初から違和感はあった。バーにいたゴロツキと派手にやりあうジョン(主役)の動きが、やけにもっさりしているのだ。下唇を若干突き出した「やんのかああん?!」という表情で無敵感を出してはいるが、伝説の部隊員というわりに動きにキレがない。
 
何となく悪い予感がしつつも話は始まったばかりだし、と気を持ち直して見続けたが、やっぱりこの人動きが遅い。遅すぎて敵が殴られ待ちをしている。こんなに行儀が良くてよく悪役が務まるなというくらいには撃たずに待ってくれている。むしろ動きをスローにしてカメラだけ動くマトリックスのやつ(バレットタイムと言うらしい)にしたほうが敵も撃つぞ撃つぞ詐欺をしなくて済むしいいのではないだろうか、と心配になるくらいには待ち続けてくれる。
 
今作のミッションは犯罪王ティーグを生け捕りにし、目的地まで送り届けることである。敵の多い要人の護衛となると、相手となるのは路地裏にいるチンピラではなく戦闘訓練を積んだ凄腕の殺し屋だ。そうなると力だけではなく経験に基づいた戦闘技術が必要であるし、訓練を積んだ特殊部隊員が主役であれば駆け引きのある計算された戦いを見ることができるのだろうとこちらとしては期待もする。
 
だが、そんな期待を勝手にされても困りますと言わんばかりに上記のような殴り合い、またはマシンガンを使った派手な撃ちあいシーンがほぼほぼで、ギャングの抗争と何が違うのかと言われても答えに詰まる戦いばかりであった。
 
思うに、今作のジョンはレスラーであるスチュアートの適性に見合った役柄ではないのだ。一般のアマチュア傭兵であれば力押しの戦闘でも納得できたのに、絶対にカッコいいからってS.A.Sにしたよね? いくら職業選択の自由があるとはいえ、大人なんだから字面だけでお仕事を選んではいけません。
 
彼の名誉のためにも「あの人が伝説と言っているからそうなのだ」という暗示ではなく、早送り動画でもタイムラプスでも何でもいいから現代使える技術を駆使して、伝説の部隊員=戦闘のプロフェッショナルという説得力を映像で示してもらいたかった。しつけの行き届いた敵を相手に身に沁みついたプロレススタイルのパワーファイトとやんのかフェイスで頑張るジョンには申し訳ないが、明らかに実戦向きではない動きでストレスは確実に蓄積された。
 
「史上最悪の極秘空輸ミッション」、物語上だけではなく大声では言えないさまざまな思いを含んだ秀逸なタイトルである。そんな深い意味をタイトルに込める策士なスタッフが、商業的エンターテイメントとして本作を成り立たせるために配置したのがアクションのできる女優陣だ。
 
彼女たちのアクションシーンだけ別作品のように生き生きとしており、ここのシーンだけハリウッド映画を切り抜いて挿入しましたと言われてもまったく違和感がない。むちゃくちゃ見ごたえがあるし、あの鍛え上げられた太ももでぜひ私も蹴られたいと夢想した紳士がたくさんいることだろう。冒頭で本作の評価を★2.8と申し上げたが、2が彼女たちで0.8がその他である。
 
さて、ここまでアクションのことしか語っていないわけだが、つまり物語に関しては特に言うことがない。作戦命令はガンガンいこうぜで、特殊部隊らしい隠密行動はなく、極秘空輸もない。話が適当な分ファイティングシーンはふんだんにあるので、物語はどうでもいいけどアクションにはこだわりがある、という人に向いている作品だった。私は死ぬまで覚えていられる自信はないが、捕まえて、逃げられて、捕まえて、の単純な繰り返しで82分もの映画を作ることができた事例として、細く長く映画史に残っていってほしい。
 
リンチ役の彼女がすごく気になり画像をいくつか見つけたのだが、リングの上でファイティングポーズをとっていたりハイキックしていたりするので、格闘系のお仕事をされている方なのかもしれない。あとは髪がないせいかヴィニー・ジョーンズが妙に年寄りじみていて、最初気づかなかった。動きも完全におじいちゃん。まだそんな年じゃないはずなのにヨボヨボしていて、彼を容赦なくボコすジェンに「おじいちゃんを・・・いじめるなーーー!」と瞬間戦闘力が1307になった。