pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

夢と現実の交錯「エクソシスター 悪夢の夜明け」感想(映画)

あらすじ

人里離れたお城のような修道院に一人の少女がやってきた。父親に自分以外の家族全員を惨殺され、孤児となったローズ。彼女はシスターとして平穏な日々を過ごしていたが、10年後のある日から、恐ろしい悪魔祓いの儀式の夢を見るようになる。ローズのカラダに何が起こっているのか?そして修道院が隠していた秘密とは?呪われた修道院の恐怖の始まりを描くホラー・エンタテイメント!(パッケージより)

エクソシスター 悪夢の夜明け [DVD]
 

簡単感想

原題は「The Dawn」。夢と現実だけではなく過去と現在までまぜこぜにされており、1回見ただけでは把握しきれない映画。ここまでこじらせた内容で種明かしまでの待機時間が70分は長すぎる。主人公の身の回りに不可解な現象が起きはじめてから延々と精神不安に付き合わされ、不穏な空気だけの時間に耐えぬき最後やっと物語が動き始めた、と思ったら曖昧な結論のままエンディング。エンターテイメント性は低く、作品説明にある「エクソシスト」「死霊館のシスター」と並べていい作品ではない。
 
私の評価は★2。製作側は隠したいようなので裏設定はネタバレとして取り扱うが、これくらいしか推せる要素がないのになぜ隠す? 情報を整理しながら述べていくので見たくない方はご注意を。でも、わかって見たほうが絶対にいい。

 

現実と虚構のはざまで

エンディングで「The Amityville Dawn(アミティヴィルの夜明け)」と表示されたことで「悪魔の棲む家(1979)」につながる話だったのか、と多くの人が気づくわけだが、そんなことを2020年に言われても生まれる前に見た記憶しかない人が大半だと思う。私もそのうちの一人なので前世の記憶を呼び起こすためにネット検索した。
 
おおまかに言うと、ニューヨーク郊外アミティヴィルにある一軒家でデフェオ家の長男が一家を惨殺する事件が起きた。1年後、売りに出されたその家を格安で購入したラッツ夫妻が3人の子どもと共に暮らし始めるのだが、怪奇現象が起きはじめ次第にパパが心身共に追い詰められていくという内容。
 
本作との共通点は家族構成やパパがとち狂うところ、加えて主人公がおかしくなっていく原因が悪魔の仕業なのか精神的な問題なのか判断つきかねるところも同じだろう。悪魔の棲む家の何につながるのかの説明は、エンディングのモノローグでお伝えしたい。
 

神父を名乗るジェレマイアという男がロングアイランドのアミティヴィルで協会の責任者を務めていた。その地では長年にわたって超常現象と先住民の呪いが噂されてきた。1974年11月13日ロナルド・デフェオという男がアミティヴィルの実家で家族を殺害して逮捕された。家の中から殺害を促す声がして黒い手に凶器を手渡されたとロナルドは裁判で主張した。

 
ローズ(主人公)は先住民族である爺様からお守りとして受け継いだペンダントを心のよりどころとしており、不安に押しつぶされそうなときは神様ではなく爺様に助けを乞い、祈りを捧げていた。最終的にペンダントがジェレマイアの手に渡ったとき、ローズの中にいる誰か、おそらくパパが「~は淀んだ心に宿る(よく聞き取れなかった)」と言っていたので、持主によって善にも悪にもなる本物のオカルティックなアイテムと思われる。なぜにパパかと言えば、ローズが「私の中に男がいる」と言って自失したとき心の中に優しいパパがいたから。
 
ジェレマイアはペンダントに祈りを捧げるローズを見て「異教徒の儀式、魔術で大地を崇拝している」「大地の崇拝だと? あれは人を生贄にする呪術だ。君の魂を食っているんだ」と責め立てていることからするに、まあ後者についてはカトリックによくある心の狭さゆえの脅し文句だろうが、そういう目で見ていた。邪悪に傾いたペンダントを彼がアミティヴィルに持ち込んだと考えると、つじつまが合うカナ~という感じ。
 
ローズが抱える精神不安の元凶は、幼い頃の父親による一家惨殺事件である。戦争の後遺症によるフラッシュバックに悩まされ、人を殺さなければと思い詰めていた父親に危機感を抱いていたローズは、いち早く危険を察知し難を逃れた。敬虔なクリスチャンである母に従い神様への感謝の日々を送っていたローズにとって、最後に目にした父親の姿は悪魔そのものだったに違いない。
 
マザーとヘンリー神父のやり取りは実際にあったはずなので、劇中の時間軸は過去と現在が混在していると思われる。合わせて現実と夢の交錯。バチカン神父たちによる決死の悪魔祓いは、ローズがこの場所に来てから10年も続けられていた。だが劇中で彼女がガラスに手を当てて冷たいと感じているときもあったので、描かれている全てが夢というわけではなさそう。意味のわからない話をさらに混乱させているのが、この夢と現実の境界の曖昧さ。あえてなのだとしても娯楽性しか感じないタイトルの内容としては構成の難易度が高すぎる。変に色気ださないで原題のままがよかったんじゃないカナ~。
 
父親の悪魔(狂気)が自分にも遺伝しているのではないかという恐怖と、それを認めたくないがゆえの現実逃避、セオドア神父やシスター・エラの言葉など、劇中人物の言葉はローズの深層心理が求めている救いの言葉なのだろう。彼女に関しては総合するに重大なトラウマによる精神疾患一択としか思えないのだが、バチカンは何でもかんでも悪魔のせいにしたがり屋さん。結局救いは与えられず全滅、ローズは館に火を放ち神様の元へと旅立っていった。
 
その後、ローズの悪魔祓いをしていた中で唯一生き残った神父が意味ありげな表情でアミティヴィルへ向かったとさ、ビターエンド。
 
生き残ったジェレマイアはローズの夢の中で距離感を測ることのできない怪しい人物として描かれており、話している最中もベタベタしてきてけっこう気持ちが悪い。つまり命がけで助けようとしている人物を、彼女は深層の意識でそのように認識していたということである。努力が報われるとは限らないのが世の常、と言いたいところだが、この平穏な夢から目覚めさせようとしている危険人物という点では間違った解釈ではない。
 
せめて30分前には夢の話であることをネタ晴らしして、こんなふうに現実と虚構を対比して見せてくれれば考察もはかどっておもしろかったろうにな、と思う。シスターのくせにネグリジェがはだけすぎでハレンチとかヒントはたくさんあったのだろうが、それで夢オチに気づけるほど教会の生活に詳しくないのですみません。