pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

神話アクションヒーロー「聖闘士星矢 The Beginning」感想

聖闘士星矢 The Beginning
あれ? 意外と悪くない。

 
劇場公開日は2023年4月28日、新田真剣佑主演で製作されたアクション映画である。原作は少年ジャンプ黄金期を支えた日本を代表する漫画であり、現在でも国内外問わず根強いファンが多くいるのは周知のことだ。
 
さて、そんな伝説的漫画のハリウッド実写化である。そう聞いて誰もが青ざめるのは、DBがハリウッドで映画化されたときの絶望が思い返されるからだろう。大人の事情をとびこえ、アメリカ人のセンスで魔改造された内容に、ぼくらが長年愛し続けたDBの総決算がこれなのか、と全米のみならず全地球人が枕を涙で濡らした、あの歴史的改変事件である。このことで植え付けられたハリウッド映画化への不信感は、そんじょそこらの一世紀で払拭されるものではない。
 

簡単感想

そのような前例があったのだから、見る前から警戒心まるだしの野犬の心になるのも仕方のないこと。だが見終わってみれば、思いのほか楽しむことのできる作品であった。半分ひやかしで見たのが申し訳なく思うほどである。原作の設定をほどよく取り入れた変身ヒーローものとなっており、まっけんゆーの鍛え上げられた肉体で魅せるアクションが、とにかくすばらしい。迫力満点の戦いは一見の価値あり。
 
私の評価は★4。なぜそう思ったかについて以下で述べてみたが、書いているうちに小宇宙が燃えあがってしまい、いささか長くなってしまった。暇つぶし程度にお付き合いいただきたい。

 

きみは小宇宙を感じたことがあるか

私も一応、OPテーマ曲をそらで歌えるほどアニメを見返したいっぱしの聖闘士のはしくれなわけだが、それも四半世紀近く前のことなので記憶はかなりおぼろげ。聖衣を獲得するまでの話としては、確か沙織(ヒロイン)の実家である城戸財閥がみなしご(星矢たち)を集めて、死と隣り合わせの厳しい修行に彼らを送り出していたと記憶する。しかも行先は素質を見て決めるのではなく、くじ引き。当たりはずれは当然あるものの、どこに行こうがぶっちゃけ大差はなく、過酷であることに違いはない。
 
こんなトンデモ設定のまま令和の映画にできるわけもなく、多少の調整はやむを得ないところだろう。星矢がみなしごで姉と生き別れたことに変わりはないが、いきなり聖衣獲得の修行に赴くのではなく、姉を探しつつ日々の糧を得るため地下闘技場で戦う中、小宇宙(コスモ)を偶然発現させたことにより運命が動き出し聖衣に巡り合う、といった自然な流れになっていた。
 
コンプラにうるさい世間が納得できるであろう折衷案として提示されたのが金網デスマッチと言われてそれでいいのか? と思い悩むかもしれないが、ハリウッドにおける金網デスマッチは日常によくある風景なので早く慣れてほしい。それにシチュエーションは違えど、星矢の現状が原作同様に厳しいものであることは伝わってくるだろう。ほかにも原作では背負っていた聖衣がペンダント式となっていたり辰巳(財閥の執事)が鬼強かったり違いはあったものの、小宇宙を自在に操れることが聖闘士となる資格であることやアテナが物語の核であるといったことなど、基本は忠実におさえられていた。
 
原作へのリスペクトも感じられるのに評価が伸び悩んでいる原因としては、あくまで原作に忠実であってほしい聖闘士たちの不評を買ったことがまずあげられる。レビューを見ると、「これは聖闘士星矢ではない」という意見が多いようだ。それは私もそう思う、聖衣もなんか冴えないし。時代にふさわしくない設定やぱっとしないキャラにアレンジをほどこし、映画として成り立たつように工夫され現代的にブラッシュアップされていることを鑑みると、思い入れが強い人ほど「実写化」ではなく「設定を踏襲したアクション映画」として見たほうが精神衛生上いいかもしれない。
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私としては、現実に落とし込んで無理がない設定とすることが改悪だとは思わない。冷静に考えても、聖闘士星矢を原作のまま映画化したら多分暑苦しい。二次元から三次元への転換自体が無理のある話なので、原作愛にあふれた聖闘士たちには違和感を飲み下す寛容さをもちつつ、減点式ではなく加点式でこの映画を見てもらえたら嬉しい。まっけんゆーのファンだから言っているのではない。素人目でもわかるほど鍛え上げられた肉体には彼の役に対する真摯な姿勢があらわれており、その頑張りを聖闘士星矢じゃないから、それだけで一蹴するのは非情におしいと考えるのだ。彼の見事なアクションがなかったら、今作は本当の駄作となっていたに違いない。
 
暑苦しいからいいんじゃないか、という意見ももちろんわかる。あの時代のジャンプを知っているからこそ同意する。私だって一輝が瞬と交換せずにそのままアンドロメダに行っていたら瞬が攻めで一輝は受けになったのかしら、と腐った脳みそで考えたことがあるし、デスクイーン島へ行ったとしても一輝は受けであってほしいと切に願ったものである。それはちょっと違う話かもしれないが、暑苦しいまま全年齢が見て楽しめるかどうかと言われたら疑問だ。この映画は原作ファンの他、まっけんゆーファンの乙女たちも観るであろうことを忘れてはいけない。
 
だが残念なことに、興行成績が伸びない要因の大きなところはいたって普通の理由だと思われる。アクション映画として抜きんでたものがないにもかかわらず、華がないからだ。トム・クルーズが出演していたら内容も確認せずお布施を払う人(私)がいるように、普通の映画だからこそ客寄せパンダが一人くらいは欲しかった。そこは日本の原作およびまっけんゆーファンが地元愛で何とかしてくれるだろう、と期待していたのだとしたら、五体投地であやまるしかない。この小さな島国の力ではどうしようもないことが、この世にはあまた存在しているのである。
 
ドリームキャッチャー」という映画をご存じだろうか。スティーブン・キング原作のファンタジーホラーだか未知との遭遇だかよくわからない作品である。この映画の出演陣を見てもらいたいのだが、真っ先にモーガン・フリーマンの名前がある。実は彼、チョイ役である。準主役でもなく脇役中の脇役である。しかもすぐ死ぬ。それなのにトップに名前がある理由はただ一つ、彼のネームバリューでこの映画に興味をもってもらうためだ。そんなの詐欺じゃねえか、と言ってもいい。私も言った。
 
つまりトム・クルーズとかリリー=ローズ・デップとか出ていたら母数が増えて評価も変わったのではないかと思うのだ。後者は知らない日本人のほうが多いだろうが、ジョニデの娘と聞けばどうだろう。ちょっと見てみようかな、と思う人が少なからずいそうではないか。
 
最後に残念だったことを言わせてほしい。マリンさんがゴツかった。聖闘士は小宇宙で殴るのだから別に筋肉いらなくね? あと「せいんと」「くろす」と打ち込むと変換候補にちゃんと漢字が出てくるあたり、世界的有名漫画であることを実感した。だが、さすがに「こすも」は出てこなかった。