pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

2月の読書記録

1月に購入した本を読み終えることができた。

購入本

プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー

太陽の熱を奪う微生物の発見により、滅亡を待つ身となった地球人。だが、同じく微生物に侵略されているくじら座タウ星(タウ・セチ)に属する惑星の中に、この脅威の影響を受けていない星があることを突き止めた。その理由を探るべく、タウ・セチに宇宙船を飛ばすプロジェクトが始まる。
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上 プロジェクト・ヘイル・メアリー 下
すばらしい物語だった。難解で理解できていない個所が数えきれないほどあるにもかかわらず、事あるごとに感動が押し寄せ、彼らと一緒になって一喜一憂した。科学知識の羅列である本書を堅苦しく感じなかったのは、ひとえに主人公の人柄のおかげである。喜怒哀楽に富んでユーモアがあってタフで、何より情に厚くて義理堅い。そんな人間味あふれる彼だからこそ、この困難なミッションを完遂できたのだ。もちろん、相棒のことも忘れてはいけない。かけがえのない存在同士となった二人の友情が遠い未来の予想図であったなら、どんなにすてきなことだろう。しばらく宇宙の彼方に思いをはせる日が続きそうだ。

 

真珠湾の冬/ジェイムズ・ケストレル

ミステリの枠を飛び越えた壮大な大河ドラマだった。翻訳本を全部読んでいるハヤカワ担当さんがイチオシするのだから間違いないだろうと手に取り、読後ますます信頼の厚みが増した。
真珠湾の冬 (ハヤカワ・ミステリ)
ハワイの猟奇殺人を捜査中に太平洋戦争が勃発、犯人の罠にかかり戦時下の日本へと連行される主人公。2転3転し続ける状況を打開し、再び捜査に戻ることはできるのだろうか、手に汗を握る場面の連続で読む手を止めることができず、寝不足のまま仕事に行く日が続いてしまった。主人公は若き日のティム・ロビンスで想像してしまったのだが、行く先々でロマンスの火種をちらちらさせる罪な男としては優男すぎるだろうか。真珠湾攻撃のアナザーサイドを垣間見たという意味でも、読んでよかったと思える作品だった。 

 

自由研究には向かない殺人/ホリー・ジャクソン

イギリスの小さな町で5年前に起こった失踪事件。自由研究のテーマとして真相を解明しようとする少女・ピップの奮闘記。
自由研究には向かない殺人 〈自由研究には向かない殺人〉シリーズ (創元推理文庫)
元気な若者が主人公か、ノリについていけるかな、これが読み始めの第一印象。だが、それも杞憂に過ぎなかった。主人公ピップがとってもチャーミングで、追いかけずにはいられなかったからだ。一風変わっていて無鉄砲で、聡明で情に厚い。家族や友人とのウィットに富んだ会話も楽しく、読み進めるほどに彼女が大好きになっていった。このことをやりとげようとした理由もいい。微笑ましくて、思わず顔がほころんだ。面白かったのはデジタルを駆使して手がかりを追っていくところ。イマドキはすごいんだな、と感心しつつ時代についていける気がしないおばちゃんである。

 

魔天忍法帖山田風太郎

14作目は伊賀忍者・鶉平太郎が初代・服部半蔵に導かれる形で過去にタイムスリップするSFであった。もちろん、ただの時間旅行でははい。彼らがたどり着いた場所は大阪夏の陣の頃の、激しく燃え上がっている江戸城前、捉えられたのは家康、寄せ手の総大将は石田三成である。つまり、私たちが知っている歴史とは微妙に異なるパラレルワールド世界へと到着してしまったのだ。そこから歴史に名を連ねる名将たちが登場するのだが、その関係性も史実と異なり、歴史に詳しい人ほど混乱する内容となっている。
魔天忍法帖 新版 (徳間文庫 や 4-8)
大胆な発想で歴史を二次創作し、主君に殉ずる忍者たちのひたむきさを描いているのはよかった。すべての感動を台無しにする鶉平太郎さえいなければ。戦国の誇り高き忍者たちと比べ、太平の忍者たる平太郎のなさけないことといったら。でも、忍者に限らず、時代と共に変わってしまった人々の正直な姿が彼なのかもしれない。

 

ヘルバウンド・ハート/クライヴ・バーカー

究極の悦楽を与えてくれる魔道士の存在を知ったフランクは、彼らを呼び出す道具「ルマルシャンの箱」を手に入れる。完全な闇に一人閉じこもり、複雑なパズルボックスの仕掛けをといた彼の前に現れたのは、苦痛を体現したかのような異形の魔道士たちだった。
ヘルバウンドハート (集英社文庫 ハ 5-8)
魔道士の恐怖をテーマとした映画とは異なり、原作は欲望を成就しようとする男女の破滅がメインで描かれていた。情景描写があまりなされておらず場面の想像が困難だったが、異界のことや冒頭フランクの軌跡を知れたことで、映画の内容をより深めることができた。過度に期待せず、映画の補完とするくらいが一番満足できるのではないか。

 

Kindle Unlimited

謎の河童銭/朱雀門

謎の河童銭 : 続 首ざぶとん
朱雀門出の自費出版作品。この方のホラーは私に合っているようで、前作同様、適度に怖い気持ちを抱きながら読むことができた。タイトル作「謎の河童銭」はコミカルな話を想像していたが、とんでもない。絶対河童銭には絶対に手を出すまいと誓った。
 

「鬼畜」の家/石井光太

「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち―(新潮文庫)
親世代に着目し、虐待事件の根本を見出そうとしたルポルタージュ。あまりにやりきれず、読みきるまでに相当のエネルギーを必要とした。近年、幼児期における愛着形成の重要性をよく目にするが、事例に挙げられた親すべて、愛着が形成されないまま大人になったと感じざるを得ないような劣悪な環境下で育ってきた人たちであった。残念なのは、本書のように自らの行為が虐待なのだと気づかせてくれる本を、彼らのような立場の人間が目にすることはない、もしくは見ても自分は違うと除外してしまうだろうと言いきれてしまうことだ。

正しく愛されずに生きてきた人たちは他者を信頼することができず、自助が欠落している中であっても公助を頼ることに意識が向かない。あとがきで筆者も述べているとおり、本書に書かれていることをただ悲惨と思うだけではなく、私たちが共助の役割を持っていることを自覚し、彼らに手を差し伸べていかなければ負の連鎖を止めることはできないのだろう。だがそれも他人に関わると損をみる、という社会にあっては難しいところである。
 

無人島に生きる十六人/須川邦彦

明治32年ハワイ諸島パールアンドハーミーズ環礁で帆船が座礁したことにより遭難した16人の乗組員。誰一人欠けることなく日本へ生還した彼らの無人島生活はどのようなものだったのか、著者が当事者に聞き取りを行う形で、その様子が綴られていた。
無人島に生きる十六人
驚いたことに、悲壮感がまったくない。無人島に漂着したとは思えないほど生命力に満ちた遭難譚で、知恵と工夫を重ねてコミュニティを築いていく過程は想像するほどに心が躍った。困難が重なっても彼らの心が折れなかったのは、優れた統率者がいたからだ。最初から何年も救助を待つと見越して規律を作り、怒らない、叱らない、小言を言わない、集団が気持ちよくいられるようこの3つを真っ先に心に誓った中川船長だからこそ、皆が信頼しついていくことができたのだ。彼をはじめ、乗組員たちの和の心に深く敬服しながら読み終えた。