pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

雰囲気ミステリ「アンノウン・ボディーズ」感想

同時に発見された6人の女性の全裸死体。血は抜かれ、指紋は酸で焼かれ、そして頭部は全て持ち去られていた。事件を担当するのは、はみ出し者のベテラン刑事フレディとそのボスで冷静沈着な相棒のフィンケ。やがて死体の身元が明らかになるが、その疾走時期や場所、彼女たちの職業や外見まで全く共通点は見いだせず捜査は難航する。そんな中、犯人の元から逃げ出したと思われる女性・リナが、記憶をなくした状態で発見される。フレディは、フィンケら上層部の反対を押し切り、リナを突破口に独自の捜査へとのめり込んでゆくのだが・・・。(パッケージより)

アンノウン・ボディーズ [DVD]

2017年、ベルギーで製作されたサスペンス・ミステリ。
 

簡単感想

ミステリの面白さを例えて「点と点がつながる」とよく表現されるが、この作品は点から点にワープしている4次元ミステリだった。視聴者が最も知りたい犯行の動機や背景、犯罪の手口、犯人だと断定する確たる根拠の発見といった「線」の描写がなされていないのだ。多くの疑問に頓着することなく刑事たちは順調に謎を解明していき、最後の最期に説明があるのかナ、と期待していたがそんなこともなく結末をむかえた。

こういう視聴者を取り残して勝手に進む映画を見ると、何でどうしてとなぜなぜ期の幼児になってしまうのだが、疑問に答えてくれる原作は残念ながら日本語翻訳されていない。良くも悪くも雰囲気映画なので、ミステリのムードを楽しみつつ何かの片手間に見るくらいがちょうどいい。私の評価は★2.8。ベルギーのモダンな建物と洗練された街並みは、見ているだけでおしゃれな気分にさせてくれた。

 

原作の上にあぐらをかいたらいけません

出演俳優含め、スタッフたちは原作を既読済みだろうから気づかなかったのかもしれないが、誰か一人ぐらいは言ってほしかった、これでは何もわかりませんよ、と。
 
大体からして映画の尺で描ききるには難しいボリュームの小説なのだと思う。死因も不明、犯人に選ばれた理由も不明な6体の遺体に5人の容疑者、捜査と並行して刑事フレディとリナの濃密なロマンスもあるとくれば、時間が足りないことは容易に想像がつく。
 
どこを映像にして、どこを省略するか、原作のある物語のやっかいなところはそこだろう。一貫した流れはきちんとあるものの、取捨選択しきれず網羅しようとしたせいで広く浅く薄っぺらい内容になってしまっていた。他の記事でも言った覚えがあるのだが、物事には原因があって結果がある。犯人はなぜ殺人に至ったのか、なぜそのような人物になってしまったのか、さまざまな「なぜ」を描いてこそ物語に深みが増す。捜査の難航が予想されるセンセーショナルな事件だけに、森を見すぎて木を見る余裕がなかったのはとても残念だ。
 
まあ正直気づいてはいる。フレディとリナのロマンスをメインにしたがっていることは。捜査の手抜きに比べて明らかに力の入ったベッドシーン、さらにリナ役女優さんの男前な脱ぎっぷりでわからいでか。それならそれで振り切ってリナを掘り下げてくれればまだ見ごたえがあったかもしれない。二兎追うものは一兎も得ず、中途半端が一番よくない。
 
キャストにしても、好感を持てる主要人物がいないのはかなり問題だと思うのだが、世間の人はどう見たのだろう。少なくとも私はいなかった。意志薄弱のはぐれ刑事、部下を信頼できない上司、距離感どころか頭もおかしい精神科医、それなりの社会的地位にいる人間がこれではベルギーもカオスだろう。

 
少し頭に血が上って文句ばかり書いてしまった。物語は残念なところもあったが、ハリウッドにはないヨーロッパ独特の気品が感じられる映像はとても美しかった。今までワッフルやチョコレートしか思い浮かばなかったベルギーの印象は変わったかな。現代的でありながら懐かしい趣の残る街並みを、いつか見に行ってみたい。
 
結論、時間の無駄とは思わないが、ミステリを期待するなら他の映画を見たほうがいい。捜査パートのはしょりはあってもフレディとリナの情事パートはしっかりと描かれているので、スケベ目的の人は満足できるかも。羊と野獣の乱闘よ。もちろんリナが野獣である。