pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

貫禄ヤクザ×はぐれ刑事「悪人伝」感想

あらすじ

凶暴なヤクザの組長チャン・ドンスが、ある夜何者かにめった刺しにされる。奇跡的に一命をとりとめたドンスは対立する組織の仕業を疑い、手下を使い犯人探しに動き出す。一方、操作にあたるのは、暴力的な手段も辞さない荒くれ者として知られるチョン刑事。彼は事件がまだ世間の誰も気づいていない連続無差別殺人鬼によるものであると確信し、手がかりを求めてドンスにつきまとう。互いに敵意を剥き出しにしながら自らの手で犯人を捕らえようとするドンスとチョン刑事。しかし狡猾な殺人鬼を出し抜くために互いの情報が必要であると悟った2人は、いつしか共闘し犯人を追い詰めていくー。
悪人伝(吹替版)

感想

アマプラで視聴。類似の検索をした覚えもないのだが、なぜか今作が「あなたが興味のありそうな映画」に表示された。どの情報から私が8等身イケメンより腹をゆすりながら歩いている中年おじが無双する姿に萌える性質であることを見抜いたのか、なかなか秀逸なチョイスである。

内容は韓国ヤクザとはぐれ警察が手を組んで連続殺人犯を追跡するという、バディもののバイオレンス・アクションである。そう言われても絵面から受けるイメージは実録・裏社会以外の何物でもなく、「悪人伝」というタイトルの圧も相まって説得力は皆無だ。

宣伝文句をこれっぽっちも信用できなかった私は、失礼ながら視聴前に情報収集を行った。優秀なアマゾンAI厳選の作品とはいえ、平日仕事終わりから就寝までの限られた貴重な時間をデンマークの至宝マッツ・ミケルセンに泥棒されるならともかく、初めてお目にかかる苦み走った中年おじにおいそれと捧げるわけにはいかない。

いろいろ巡ってわかったことは、この作品が本国NO.1⼤ヒットを記録し、かつハリウッドリメイクが予定されていて、どこのレビューサイトを見ても★4以上の高評価がつけられているとんでもねえ映画ということだ。その高評価の理由9割近くを、この中年おじことチャン・ドンス(マ・ドンソク)が魅せる悪徳の美学が叩き出していたのである。

ドンスは近年あまり見ないほど強力な武闘派ヤクザで、暴力を暴力で抑えつけるのが俺たちだ、というスタンスを表明するべくサンドバッグに人間を詰め込んで徹底的に殴りつける暴行シーンから登場する。態度の悪い下っ端構成員の歯を引き抜いたり自分を襲ってきた殺人犯を利用してライバルを殺害したり、全編通して殴る蹴るが当たり前で、ご飯のお供としてつまむにはいささか刺激の強い男である。

ときに悪知恵を働かせて警察をあざむくなど、タイトルに偽りのない悪の花道を歩んでいるドンスになぜ皆が惹かれるのかと言えば、一本筋が通っているからだろう。どのような形であれ、信念を持つ男は無条件にかっこいいのである。喧嘩の基本が目方を活かしたステゴロスタイルであるのも、彼の男気に拍車をかけていた。私たちが思い描く、ヤクザのカリスマはこうであってほしいという願いの集大成がドンスであった。


さて、ここまで褒めてきて手のひらを反すのが私の感想スタイルであるわけだが、高評価の9割がドンスおじということからも分かる通り、物語に関しては特筆すべき点がない。よい言い方をすれば何も考えずに見ることができる、悪い言い方をすればご都合主義。犯人捜しのサスペンスはなく、連続殺人犯の動機の掘り下げもあっさりしたもので、本当にあおり文句通りのバイオレンス一辺倒であった。ドンスの活躍のみでリメイク決定するなんてハリウッドどんだけネタ不足なんだと思わざるを得ないわけだが、その際はドンスをマッツ・ミケルセンにしない限り何らかのテコ入れが必要だろう。

また、ドンスとバディを組む警察官のテソクが相棒としては力量不足で、どうしたって見劣りする。ただの暴力警官で、知的さや悪を手玉にとるしたたかさも感じられない。最後まで権力をかさにしなければ彼と対等に並ぶことができなかったのは残念だった。殺人犯役の人も不穏な顔芸が主な仕事で、ドンス以外の人物像の作りが雑だったように思う。ただ、ヤクザと深く関わったことで変わってしまったテソクの姿には心を動かすものがあった。終盤の流れはとてもよかった。

トータルで、私のおすすめ度は★4である。2005年を舞台としているので多少の古くささは感じるものの、警察もヤクザも元気だった時代ならではの破天荒な姿は逆に新鮮であった。とにかくドンスの中年無双は一見の価値がある。なお、多くのシーンで致死量レベルの血が流れるものの本作はエンタメなので、実録・裏社会のように爪の間に鉄棒を挿して火であぶったりカンナで皮膚を削ったりといったエグめのヤクザ拷問はない。