pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

BL漫画を好き勝手に語る回 4

2021年上半期に書いたやつ。

 

いとおしき日々/sono.N(Charles Comics:21年1月4日)

いとおしき日々【特典付き】 (シャルルコミックス)
あるカップルの生涯を描いたヒューマンドラマ。10代から70代まで、年代ごとの出来事がオムニバスで収録されている。若い世代の瑞々しい輝きだけではなく、家族になることへの葛藤や自分がいなくなったその後を見据えた終活に至るまで、すべてが二人にとってかけがえのない日々であったことが伝わってくる。

「墓を買いたいと言ったら怒るか? 僕とおまえの」「まさか、今さらあんたなしで寝れないの、知ってるでしょ」別れのときがくることをすんなり受け止めたシーン、泣いた。真が旅立った日、凪いだ笑顔を見せる和彦、泣いた。もう終始泣いていたかもしれない笑 理想的な夫婦(夫)の在り方を見ているだけと言われればそうなのだが、そんな当たり前にひどく胸を打たれた。こんなに充実した人生を送ることができる人が、はたしてどれだけいるのだろうか。生涯をかけて共に歩める人と出会い、ただ1度の人生をまっとうできた彼らを心からうらやましく思う。
 

愛なら素直であればいい/あずみつな ( Qpaコレクション:21年1月16日)

エッッッッッッ
愛なら素直であればいい 【電子限定特典付き】 (バンブーコミックス Qpaコレクション)
思い込みから始まったオフィスラブがすけべすぎて、ますますあずみつな先生が好きになった。

自他ともに認めるイケメンサラリーマン吉岡が、自分を主人公にしたBL小説を同僚の豊田が書いていると知るところから物語は始まる。その内容から豊田が自分に好意を抱いていると感じた吉岡は、BL小説に書いている妄想を現実にかなえてやるため、何かにつけて(上から目線で)豊田にモーションをかけていく。

つまり、受けの吉岡がアホの子なのだ。「豊田に抱きつぶされてみっともなかったから次こそは完璧な恋人(ネコ)になってやる」て、思考が天才すぎておばちゃんほんとありがてえ。案の定、抱きつぶされて鼻水やらヨダレやらダラダラで飛んじゃっているんだもの。流されるままそれに付き合う豊田も俺得で、雄み全開の抱き方にいいねボタン連打しちゃった。

私がBLに捕らわれている理由の一つに、萌えを意識した作品が多いというのがある。激しい萌えを感じた瞬間落ち着いていられないのは、ドーパミンセロトニンオキシトシンといった幸福感を引き起こす脳内物質が一気に放出されるからなのかなと勝手に思っているわけだが、あずみつな先生の作品を読むと、かなりの頻度で脳内物質が放出されるのである。何が言いたいのかというと、今作は超最高だった、以上。
 

ブライトブルーに沈む/ぱるあ(arca comics:21年1月25日)

”I Love You”・・・この美しい二人を見てしまったら素通りすることなんてできやしない、つまり表紙買い。オビにある「シネマティック・ラブ」という言葉のとおり、上質な映画を観ている感覚で物語を楽しむことができた。素晴らしかった。
ブライトブルーに沈む【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】 (arca comics)
小説家を目指しているネッドと、彼が毎年2か月だけ滞在するホームステイ先のホスト・アルとの、数年に渡る恋の物語。ところどころに英語綴りの気さくな台詞が飛びかい、日本ではない海外の空気を肌で感じられたことに、まず感動。漫画で日本くささを消すのってけっこう難しいと思う。雰囲気づくりがとても上手な作家さんだと感じた。

幼さの残る姿形を見て青春ものだろうかと予想しながら読み始めたが、描かれていたのは大人の恋だった。年に一度しか会わないにもかかわらず、二人は愛を語りあったり、甘い気分に酔いしれたりすることはしない。何気ない言葉をかわすだけだ。確実に積み重なっている想いがあることに気づいていながら、一歩踏み出すことをしないの。そんなだから最終話、ネッドが伝えられずにいた一言をアルに耳打ちしたシーンは、まさに感無量。たった一言でこんなにも幸せにしてくれるBLてすごいな、飾り立てた百の言葉など必要ないのだ。

二人の家はイギリスのclovelly villageという港町のものをモデルにされたと、あとがきで作者さまが記載されていた。石畳が連なる古きよき街並みで物語に深みが増したものの、調べをすすめたら一気に現実に引き戻されてしまった。突き詰めすぎず、画像検索にとどめておくべきだった。
 

たんたんとタント/きはら記子(SPコミックス mimosa:21年2月10日)

たんたんとタント【単行本版】 (mimosa)
幼なじみ同士であるシュンペイとコタの、高校生活最後の夏を描いた青春作品。牧歌的な風景とアオハルって何でこんなに相性いいんだろ。

小さな商店がひとつあるだけの田舎、遊ぶところといえば山か川。道行く人たちはみんな顔見知りで、出会えば気軽に声を掛けて気遣ってくれる。おだやかに流れる時間と同じように、ずっと一緒にいた二人の関係が恋人に移りゆくまでの過程が、ゆったりと描かれていた。

コタよりも一足早く大人になったシュンペイのひたむきさが切なくもあり、もやもやの正体に気づけないコタのあどけなさがもどかしくもあり、見ている側としてはやきもきしつつ、駆け引きなどない純粋な恋に憧れすら覚えた。

作中では同性同士の恋ということについて触れられる場面がほぼなかったが、やっと気持ちが一つになったのちの最終話、シュンペイが心のうちでつぶやいた一言にそれを感じて、ひどく胸を打たれた。愛だけではなく、葛藤や決意、祈り、贖罪といった複雑な想いの全てが込められた永遠の誓いだ。このセリフを聞くために私はここまで導かれたのかもしれないと思うほど、切実だった。シュンペイに可愛いと言ったときのコタの男前ぶりといい、きはら先生のここぞというときのセンスには神が宿っている。

彼らの親御さんがまた素晴らしいんだ。特にコタのお母さんはかなり初期から気づいていただろうに、二人を信頼してどっしりとかまえた姿勢が本当にお見事。こんなご家族たちに囲まれて育ったシュンペイとコタは幸せ者だ。
 

魔王イブロギアに身を捧げよ/梶原伊緒(BLスクリーモ:21年2月18日)

魔王イブロギアに身を捧げよ1【単行本版特典ペーパー付き】 魔王イブロギアに身を捧げよ【単行本版特典ペーパー付き】 (BLスクリーモ)
抗争の末死亡し、子どものころに遊んだゲームの世界に異世界転生した反社の構成員・牛頭(ゴズ)が、憧れていたラスボス・イブロギア(少年期)と共に魔王の本懐である世界の破滅を目指し旅を進めていく。表紙のえっちな体をした黒髪イケメンが受け様であり、属性は襲い受けになるのか、かなり積極的に自ら突っ込みなさり、性格的にもつかみどころが難しいオラオラ系だ。

私は今まで異世界転生というジャンルが苦手だった。何でもありの都合のいい世界観が受け入れがたかったのだ。そんなで長らく敬遠していたのだが、このたび梶原先生のフェティシズムを信じてチャレンジしたところ、有りだった。アリアリのアリだった。イブが魔力で自分より体の大きいゴズさんをお姫様抱っこしたり、魔力でお尻をゴニョゴニョしたり、剣と魔法の世界何でもアリすぎて最高だな? なるほど、皆さんが熱中する理由を実感を伴って納得できた。

読み始めは没頭しきれず失敗したと思ったが、何度か読むうちイブの可愛い攻めっ気や奔放なゴズさんの味わい深さにじわじわとハマり、大好きな作品の一つとなった。二人の旅が完結するまでぜってー死ねないぜ。

梶原先生の作品傾向からするに、体格差カップルにおいては体が小さいほうが攻め、という点で私と完全に意見が一致しているとお見受けしており、実は作家買いしている方である。ご自身の性癖を貫徹されている作家様は何人かおられるが、その供給を心待ちにしている身としてはとてもありがたいことだと思っている。
 

アンデッドパピー/さきしたせんむ(秒で分かるBL:21年3月1日)

アンデッドパピー【電子限定かきおろし付】 (秒で分かるBL)
吸血鬼というお耽美の代表選手とさきしたせんむ先生の美麗な作画がお手々つないでやってきた。この愛は、永遠 そんなくっさい言葉が頭に浮かぶほど世界観に侵された。

吸血鬼のミハイル(ミーシャ)が拾った人間・ヨハンとの、愛の物語。その愛の形が二人の間で異なっていて、親としての愛情を注ぐミハイルに対し、ヨハンは性的な意味での愛を求めている。そうなると当たり前に はわわ♥ という状況が生まれて、私および全国の女性約6,000万人(推定)がウレションして喜ぶというわけだ。

顔のいい男と顔のいい男が必要以上に密着する作品ではあるものの、本編でいたしたのは1度だけであった。昨今は吸血鬼そのものが性的コンテンツとして確立されていて、吸血行為に快感が伴うとか精〇でもいいとか諸説生まれているが、本作は違う。描かれていたのは一途な愛だったムッハー。

「パパにむかってなんだいそのペ〇スはー!!」笑 ラブコメかと思いきや、孤独や苦悩といった人ならざる者が抱く普遍のテーマはきちんとシリアスに描かれていて、お互いを想うひたむきさが胸にせまり涙してしまう場面もあった。

大事なことなので何度でも言うが、ミハイルとヨハンはもとより、目に入る全てにおいて、とめどなく流れる滝鼻血ですら美しかった。「美しい」、偽りなくその言葉を表現できる先生の作画とヴァンパイアストーリーのマリアージュ、最高だった。
 

金髪お坊ちゃまと日本人執事/ん村(gateauコミックス:21年3月15日 )

金髪お坊ちゃまと日本人執事【描き下ろし漫画付き】 (gateauコミックス)
執事のタナカ(24歳)を好きになってしまった坊ちゃま(9歳)の恋物語。あなたが無人島に一つ何を持っていくかと聞かれたら「ショタ×おに」と答えるほどには沼っている私の聖書である。

すべてにおいて、可愛いに尽きる。タナカの気を引こうと精一杯背伸びをして頑張るのだけど、うまくいかなくて空回りしてしまうというショタ×おに好きにはたまらない一連の流れがお腹いっぱい味わえた。子ども特有のけなげないじらしさにちゃんと応えてくれるタナカのスマートさも、とっても素敵。大人同士の恋愛ではつらい展開になりがちなつまづきですら微笑ましく、最初から最後まであたたかな心地よさを感じる、負の要素ゼロの物語だった。

続編は、え、ないの? 描きおろしで少しだけ触れられた未来予想図が幸せの象徴すぎて、渇望せずにはいられない。一方的な片思い、しかもまったく相手にされていない(←重要)ところから年月をかけてじっくりと外堀を埋め、タナカが気づいたころには包囲網が完成しており、恋が成就する以外の選択肢がない。想像するだけで幸せに満たされるからコスパいいっちゃいいんだけど、坊ちゃまの将来性に並みならぬ期待をしている身としては、さらなる投資をさせていただくためにもシリーズ化を希望する。

私が声を大にして訴えたいのは、小学生以下のショタ×おにに雄みやすけべはいらねえ、ということだ。この世代の今この時しか見ることができない、頬へのキスですら躊躇してしまうかわいい盛りの初々しさは、何物にもかえがたい宝物。若生えの純な味わいを、私は守りたい。そういう点で、まったくその気のないタナカのスタンスも好ましい作品であった。
 

こいの徒花/横澤しっか(プラセボ:21年4月7日)

こいの徒花【電子限定特典付き】【コミックス版】 (プラセボ)
新しいはじまりの月にふさわしい、再生と旅立ちの物語。萌えや甘々少な目の、読みごたえある作品だった。

会社に泊まり込んでいた社畜の山崎は、偶然金庫破りの現場を見てしまったことから口封じのため拉致され、犯人の少年・悠のアジトで流されるまま共同生活を続けていく。一緒の時間を過ごすうち、山崎は仕事という呪縛から解放してくれた悠の自由な心に引かれていき、掃きだめで生きるしかない悠は自分という人間に価値を与えてくれた山崎にすがるようになる。

ストーリー重視のBLで、脚本がよく考えられていた。テーマはシリアスながら、何気ない日常を過ごす二人が描かれていて、ドラマを観る感覚で楽むことができた。二人と関わる歪さを抱えたサブキャラたちも好みのタイプだった。悠の世話をやいている三上の憐れな心の弱さ、反社の三上とつるんでいる刑事・白田の笑顔に隠されたドブ臭さ、こやつらの内面に探りを入れると、いろんな淀みが見えてきてゲスな笑いが止まりませんな。で、中表紙拝見しましたけれども、三上と白田のスピンオフいつ出ますの?

誘拐犯と誘拐された被害者という異色カップル、攻めである被害者の山崎が意外とヤリ手で、ときめかせてくれた。渋みのある大人の余裕と積極性何これ、くたびれたリーマン姿はフラグであったか。ちゃっかり、本当にちゃっかり悠とねんごろな関係になるスマートな手腕に私が喜んで仕方がなかった。
 

シュガードラッグ/頼長(麗人uno!コミックス:21年4月7日)

なんちゅうポップ&キュート。だけどR18なのか表紙画像が出てこない。

時代設定は近未来になるのか、「研究特区」と呼ばれる最先端の生体研究機関が今作の舞台。男性ばかりの閉鎖空間である特区では、主席研究員の助手兼愛人になることが最高のステータスとされている。電子医療の研究室に配属となったハルが、トラブルから催淫作用のある電子薬を浴びてしまったからさあ大変、主席の天木に「おれが下になりますから、しましょう」と迫り・・・はわわ♥

作品の設定を友人(男)に紹介したらすべてにツッコミを入れられたわけだが、こちらとしては俺得パラダイスで何の問題もなかった。

物語を読み進めると、早々に画面を埋め尽くすエッチなオノマトペの洗礼を受ける。さながら男性向けR18漫画のそれ、つまりすけべ漫画であったか。そうだと思って手に取ったわけではないのに、そうだったとき、なぜか勝負を制した気分になる。生々しさを感じさせない可愛い絵よし、天木の攻め顔よし、春のトロ顔よし、まぐわいの密度よし、角度よし、糖度よし、て忘れないでここは国家最高機関の研究所だ笑

あわせて、作者さまの漫画センスね。作品全体から漂うオシャレみに、昔人間の私はおののいた。これが令和のBLか。ちょっとサイケに感じるのは天木の髪型のせいもあるのかな、ちゃんとご自分の世界を確立されておられるから、クセはあるのにしっかりBLしていた。これからまだまだ伸びていかれるだろうし、今後の作品も楽しみである。
 

それは春の終わりに/野白ぐり(HertZ&CRAFT:21年4月9日)

それは春の終わりに (HertZ&CRAFT)
この美しい二人を見てしまったら素通りすることなんてできやしない、またも表紙買い。口づけ寸前のイケメンが私ホイホイであることに今さら気づいた。どうですか、このなんぴとたりとも犯すべからずな聖域み、こするとフローラルブーケの香りがします。

さとり世代の会社員・天川が移動先で出会ったミステリアスな先輩・中原に何となく惹かれ始め、本当の恋を知っていく物語。さとり世代というのは勝手な想像だが、穏やかで動じることが少なく、感情の起伏がにぶい達観した天然系というイメージから連想した。

内容は年下ワンコ攻めの王道。作者さまの好きなものをぎっしり詰め込まれていることが感じられて、とても好感が持てた。おばちゃんね、妄想を実現できる才能をお持ちの方には、好きなものを好きなように表現してもらいたいと思っているの。そういう作品ほど熱意がこもるだろうし、結果俺得になるでしょう。

わんこに見えて本性はしたたかとか、クールに見えて実は甘えん坊とか、黒髪受けとか年の差ありとか、やけに協力的な同僚とか笑 関係性が逆転していくあたりも違和感なく読めて、素直におもしろかった。さらっと書いたけど、恋愛における自然な立場の入れ替えを限られたページ数で描くのって、簡単なことではないと思う。この構成力で初コミックだと言うのだから、新人作家さんたちのレベルの高さに驚かされる。
 

ギャルゲの世界で親友♂が俺を好きだと言い出して!?/ふじとび(eyesコミックス:21年5月25日)

ギャルゲの世界で親友♂が俺を好きだと言い出して!?【電子限定描き下ろし付き】 (ドットブルームコミックスDIGITAL)
タイトルにも絵にもまったく興味がわかなかったのだが、熱烈なレビューに導かれて手を伸ばした結果、無事、導かれし者となった。ふじとび先生に一生ついていく。

不慮の事故からギャルゲーの世界にトリップしてしまった、男子高校生・葵と利月(りつき)。クリアしなければ元の世界に戻れないと知った二人は攻略をすすめていくのだが、その中で葵は利月の自分に対する好感度が限界突破していることを知る。そこからタイトルどおり、利月は葵に気持ちを伝え、自分とのカップリングエンドを目指してほしいと懇願する。

親友から恋人になるために頑張る利月と、そんな利月を見て胸の高鳴りを覚える葵、少しずつ距離が近づいていく過程が初々しくて瑞々しくて、若いっていいねえニコニコ。心が通じ合ったあとの幸せぶりまで見れて、私はとても嬉しい。

すけべはこれっぽっちもなかった。だからこそ、ロッカーに隠れ二人がゼロ距離になったシーンはすごく緊張した。早鐘を打つ心臓の音が自分ではなく利月のものだと気づき、はっとする葵。利月の想いを再認識し、あわてる葵をいぶかしむ利月。目があって、そのまま見つめ合い、は、はわわ♥ 学園ものでは鉄板とも言えるお決まりシチュエーションに、ここまでドギマギさせられたのは久しぶりかも。ふじとび先生の作画タッチとピュア恋の相乗効果やばいな。

恋愛シュミレーションゲームの小ネタにも笑った。初期に貰えるランダム服での初デート、ごめんやったことある。こんな感じだったのか笑 1年過ごしたのち、最後にぽ太と交わした会話には言葉以上のものを感じて、少しセンチメンタルな気分になった。
 

ねこ先輩と猫かぶりくん/楢崎壮太 (ビボピーコミックス:21年5月20日

ねこ先輩と猫かぶりくん【電子限定かきおろし付】 (ビボピーコミックス)
pixivで見て、これは手元に残さねばという使命感にかられた作品。保護したネコが実は人間で、しかも学校イチのイケメン先輩が変化した姿だった、そんな夢ドリームあるわけないやろがい。

ごめんあったわ。心優しいことを他人に知られたくない可児(かに)くんが、ある日出会ったドロだらけのネコ。こっそり家に連れ帰り、一緒にうたた寝してしまう。そう、この保護したネコが学校イチの王子・猫神先輩で、このあと目を覚ました可児くんは全裸の先輩とご対面を果たす。

可児ちゃんが本当にいい子のうえ欲望ゼロの好青年ということもあり、人間同士の甘々シーンは少なかった。だが、素直に愛情表現できるという動物の特権をフル活用したスキンシップが、ケモ度5のケモナーにぶっ刺さった。ゴロゴロ喉を鳴らして好き好き甘えているネコ(先輩)を抱く可児ちゃん(尊)という構図、いろいろと飢えている妄想狂(私)への施しとして最適解すぎた。

先輩と交流を持つようになった可児くんが、いっしょにネコの保護施設へボランティアに行くエピソードを描いているところに、作者さまが本当に動物好きでいらっしゃることが伝わってきて、嬉しくなった。まったく関係のないフィールドでこういった取り組みに焦点を当てて下さることに、漫画の持つ意義を再確認する次第。

物語の本筋は可児ちゃんのトラウマ克服だったので、ネコに変身したことによるドタバタがあるわけではなかった。ファンタジーが苦手な方でもとっつきやすい作品ではあるが、ネコ姿での活躍を強く求めていた私には少し物足りなさも残った。

そんな物足りなさもね、本編のちの書きおろしでチャラ、結果大満足よ。ネコなら全然オッケーなことも、人間で実行すると何て刺激が強いんだ。先輩GJ、大人な続編待ってるぜ。
 

ゴッドハンド千尋/御茶漬わさび(B's-LOVEY COMICS:21年5月14日)

えっ、B's-LOVEYだったのか。。。
ゴッドハンド千尋【電子限定特典つき】 (B's-LOVEY COMICS)
アナル開発の天才「ゴッドハンド」と呼ばれる生徒がいると噂される高校に赴任した、美尻の教師・斎藤純和。その美尻が放っておかれるはずもなく、俺に開発させてくださいとクラスの生徒・千尋が迫ってきたから、おやおやまあまあ、という話。

御茶漬先生が好きというのもあるのだが、ファンタジーであるBLにリアルをちらと垣間見て、推せる作品となった。

いきなりその点から申しあげるのも無粋なので、まずは感想から。この作品を一言で表すと「そつがない」。明るく楽しいセックスと芯のあるストーリー、当て馬の出現もなくストレスフリーで楽しめた。この作品に限らず、御茶漬先生の作品は全般的にそつがないよね。すけべだけではなく脚本作りも巧みな方だと思っている。

しょっぱなから教師のアナスタシアがかわいがられる展開に「倫理って何だろうね」と遠い目をするわけだが、2話目から徐々に心をうまく開けない生徒と、それを導こうとする教師の話にスライドしていった。実は学園モノにふさわしいテーマの、心に響く物語なのだ。いやマジなんだって。むしろ、ゴッドハンド時のカリスマ性帯師姿は前半で終わるのに、帯のアオリがこれでいいのかと心配になる。

漫画に必要なのはリアリティだ、と叫んだのは某露伴先生だが、この作品でそれを感じたセリフがある。はじめて指を入れられたときに純和が言った「うんこ入ってるみたい」である。第一声がこれであることに、ひどく感銘を受けた。BLは夢でありイメージ商売でもあるから、その感触については異物感がすごいとか変な感じとか、にごしてあることが多い。それを聞くたびに素直になれよと思っていた私の核心をついたのが、うんこ入ってるみたい。飾らず偽らずこのセリフを純和に言わせた御茶漬先生ほんと好き。そうだよね、うんこ出るところだものね。
 

フェイクファクトリップス/末広マチ( Qpaコレクション:21年6月16日)

ああ、強気ツンデレの無自覚デレは何という罪深きものなのだ。ツンデレの良さって何だろう、そう自問していた私の答えがここにあった。
フェイクファクトリップス 【電子限定特典付き】 (バンブーコミックス Qpaコレクション)
三度の飯よりフェイクファクトリップスが好きだ、大好きだ、以上。

そんなわけにもいかないので語るが、高校時代から張り合ってきた良と全。社会人となって再開した二人は、酔った勢いからどちらが先に相手を口説き落とせるかの勝負を始める。恋愛テクニックを用いて必死に落とそうとする全に対し、自然な心配りや思いやりで全に寄り添ってくる良。この時点で読者は何となくお互いの気持ちを察することができるわけだが、だからこそ建前と本音が絶妙にからみあった駆け引きにドキドキさせられて、どうしたって萌え転がり不可避。

うーん好きすぎるとさ、好き以外の言葉がでてこないんだよ。何たって表情がたまらなくいいんだ。全に急に呼び出された良の笑顔、もう勝負なんて頭から吹き飛んで、好きが溢れちゃっているんだもの。その笑顔の裏にある切なさをおばちゃん知っているからさ、胸がぎゅうと締め付けられた。締め付けられすぎて病院送りになるところだったけど、この場面は何度も読み返した。良が本当に全を好きなことが分かるたび不整脈が起きるのよね。

最も心を奪われたのは、やはり全が唐突に見せてくる素直な一面。描きおろしが最高すぎたね。全のことが大好きな良、そんなキミが大好きだと叫びたい。君たちが幸せになってくれたことに心から感謝する。末永くお幸せにね。
 

はだしの天使/野ノ宮いと(ビーボーイコミックスDX:21年6月21日)

はだしの天使【電子限定かきおろし付】 (ビーボーイコミックスDX)
フォールダウンした天使と人間が心を通わせる物語。天上人の世間知らずさと純粋さ、職能を失っても損なわれることのない神聖さがもれなく描かれていて、堕天フェチ勢もにっこりの内容だった。ベニーが元天使ということ以外のファンタジー要素はなく、特殊能力が発動するようなこともない。単行本ではなく雑誌で読んだので、そちらの感想となる。

靴職人のターナーが公園で見かけた、不思議な青年。帰る家を持たず、自らを天使と言い張る彼を怪しみながらも家に連れ帰ると、ベンジャミン(ベニー)という名と寝床を与え、生活を共にしていく。表紙から感じるイメージのとおり、この物語に激情はない。靴を作るターナーと、それを見守るベニー、淡々とすぎゆく日常の中、無知ゆえの無垢でターナーを困惑させるベニーと自分の本音を隠すターナーのやり取りが描かれている。

話は脱・天使から始まっていたが、ターナーがベニーを抱いたシーンを見ていたら、本当の意味で堕天したのはこのときなのではないかと考えるようになった。天使のときには持ち得なかった嫉妬や欲といった感情を獲得し、身体だけではなく心から人間になった瞬間だ。人と肌を重ねることが天との完全な別離を暗喩しているようにも見えて、とても重大な行為のように思えた。

同時に、ターナーには申し訳ないのだが、堕天という言葉には邪悪なイメージも持っているので、彼の姿が悪魔に見えて仕方がなかった。だってだって、あんな熱を持ったまなざしのターナーどこに隠していたん。温厚な彼が獣欲まるだしで清純な天使を穢しているのだと思うと、めちゃくちゃ淫靡でエッッ・・・何かすまん。この場面を儀式と見るか堕落と見るか、私の中で論争が起きている。まさか単なる愛の営みでワイが中二こじらせているだけか?

余韻を残した美しい終わり方だったが、さらりとしか触れられなかった天上のことや、語り切れなかった二人のエピソードを拝見できる日がきてくれたら、とてもうれしい。いろいろと想像を巡らせるのも楽しいけどね。
 

どう考えても死んでいる/雁須磨子(ルチルコレクション:21年6月4日 )

【電子限定おまけ付き】 どう考えても死んでいる (バーズコミックス ルチルコレクション)
怪奇好きホイホイがすぎるタイトル。いやまさか死んでいないだろう、キミは生霊で本体は病院でスヤスヤ眠っているんだろうオジさんをからかうんじゃないハハハと手に取ったら、本当に死んでいた。

何かの理由で死んでしまい”無”となっていた晋太郎が、残された恋人・翼の呼びかけにより意識を取り戻したところから物語は始まる。

さて困ったぞ、まっさらな状態で読んだほうがおもしろいのに、どう考えてもネタバレせずに書けない汗。内容が語れないと手も足も思考すらも停止してしまうな。

えっと、呪術や超自然が当たり前に登場する完全なファンタジーだよ。霊能者が登場したり生者の体を乗っ取ったり、怖くはないがちゃんとオカルトしているよ。死者と生者の幸せの形はどうなるのだろうかと読み進め、最終的なおとしどころが力技であるものの、おおかたの読者が納得する着地になっていると思うよ。

めでたしか、そうでないかの解釈は読者に委ねられていた。一見すると永遠の愛を獲得した幸せカップルに見えるけれども、それまでの経緯を考えると外野の私は、そう言い切れないところもあった。設定の奥側までのぞくと印象が変わる物語だと感じた。

闇に魅入られている翼の対となる晋太郎が、ひたすらに光の子で、救いだった。