pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「輝ける闇」開高健

輝ける闇 (新潮文庫)
開高健「輝ける闇」読了。私には難しい小説だった。

主人公が記者であること、著者がベトナム戦争を取材したルポライターであること、その経験をもとにした小説であること、先入観や事前情報に囚われすぎて、純文学であることを認識するまで時間がかかった。

序盤から中盤まで、今どこにいるのか、何をしているのか分からない場面が多く、なかなか物語に入りこめなかった。主人公がたびたび思索に耽り始めるのも、集中が途切れた要因の一つと思う。抽象的で遠回しながら核心を突いている物言いには感銘を受けたが、長い。とにかく語りが長い。長い長い内省に足止めさせられれば、歩いてきた道を見失い迷子にもなるさ。

著者の繊細な感性と表現力には芸術すら感じたし、マーカーめちゃくちゃ引いたし、言葉そのものとしては理解もできた。でもね、簡単に意味を捉えさせない文章をわんこそば方式に次から次へとふるまわれると、娯楽でしか本を読まない私の脳はキャパオーバーになってフタをしちゃうんだ。つまり読み流し不可避。

残念ながら、描かれた出来事の本質を深く読み取る力を私は持っていなかった。第二次大戦を経験した主人公が、ベトナム戦争対岸の火事として俯瞰し、冷静に分析し、その過程で自己の暗部を確認し、嫌悪し、恥じているのはわかった。こんなに意識高くて感受性の強い人は戦場記者に向いていないと思う。

そんなんで休み休み、挫折しかかりながら最終章に突入、それまでの牛歩が嘘のように一気に読み終えた。密林と緊迫と銃声、ただ生きることのみに執着するリアル、夢中になった。この戦場を読めただけで「輝ける闇」を手にとってよかったと思えた。

総じて感情を大きく動かされることはない物語だったが、兵役に向かう青年を見送るシーンでは情がささり、自然と涙があふれた。彼はどうなっただろうか、彼女は待ち続けているのだろうか、読み終わった今、想いをはせる私がいる。