pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「死体格差 解剖台の上の「声なき声」より」西尾元

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より
キンドルアンリミで借りて読み始めたら、ところどころマーカーが引いてあって、昔借りていたことを思い出した。借りたはいいけど読み切る前に返したんだっけ。返却後も消さずに残しておいてくれるなんて、キンドルは律儀だなあ。

さて、法医学を専門とし、長きにわたり実際に解剖に携わっている著者が、法医学を広く知ってもらいたいという思いで書かれた書籍。その道に向かわなければ知ることもない知識をプロが一般向けに書いてくれること自体、とても貴重でありがたいことだと思う。

死の状況にあわせ章構成されており、ご自身が携わった臨床事例やデータを提示しながら、ときには有名な事件も例にあげ、素人にも理解できる範囲でわかりやすく、法医知識やノウハウが説明されていた。小説やテレビドラマで人が死後、どのような状態になるのか基本的なことは知っていたものの、その先の細かい判別方法については初めて知ることだらけだった。事件性あるなしに関わらず、人が死に至る原因を決定づけることが、とてつもなく重い責任であることも改めて認識した。

驚いたのは、警察が事件性なしと判断すれば、解剖が行われないという点だ。私は病院以外で亡くなった方は、必ず解剖されるのだと思っていた。つまり警察が見逃して、事件になっていない事件も少なからず存在するのが現状なのである。法医学を目指す学生さんは少ないそうだし、予算削減や人員不足のパンクを避けるためにも選別が必要とはいえ、うーん、浮かばれない方がそこらへんにたくさんいそうである。

首吊りや飛び降りといった死因が明らかな場合でも、残された者は助けられなかったことを悩み、苦しむこともある。生前どのような暮らしをし、どのような心境から死に至ることになったのか、体に残された痕跡から故人の生前の状況を知ることができる法医解剖に救われた人も多くいるだろう。警察ではなく遺族が依頼して行う解剖を「承諾解剖」と言い、本書では県が費用負担してくれると書いてあった。ネット検索すると自己負担と出てくるので、自治体ごとに対応が異なると思われる。

情報の取捨選択には相当気を使われただろうが、やもすれば犯罪者にヒントを与えかねない内容もあった。だけど私は逆に抑止になるのではないかと思う。だって、どう考えても彼らに隠し通すのは無理だって理解できたもの。

犬が虹の橋を渡ってから死を身近に感じるようになった私であるが、この本を読んで、さらに死というものへの考えが深まった。できることなら彼らのお世話にならず、ピンピンコロリで旅立ちたい。いや待てよ、その場合死因がわからないから解剖されることになるんじゃないか?