pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

今日の一冊:「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」内藤了

一般文芸ではなくライト文芸だった。

ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)
過去に犯罪を犯した人物が、自分が犯した犯罪内容と同様の方法で殺される猟奇事件が発生した。物語は主人公である新米刑事・藤堂比奈子が現場に駆り出されるところから始まる。

つぎつぎに起こる常軌を逸した連続殺人。読書中は、「火サス」と呼ばれる2時間サスペンスドラマを見ているときと同じ感覚で事件を追っていた。火サスてさ、時間枠が決められているから、スムーズに事がはこぶじゃない。この本も同じ。犯人との駆け引きによる心理戦でドキドキしたり、伏線にはっとしたりすることもなく、あっさり終わった。猟奇とついたタイトルから期待したグロテスクなシーンも気持ちが入りこむ前に次の場面に進んでしまうから、ちっとも胸クソ悪くない。

原因はわかっている。淡泊とさえ感じる無駄をはぶいた描写、捜査に行き詰ると過去の資料に記載のあった出来事や人物を、超記憶の持ち主である比奈子が思い出すという結構なご都合主義、これでもかと説明を重ねる一般文芸に慣れた身には、ちと薄味だったのだ。

だからといってつまらないわけではない。ここまで言っておいて何だが、内容は面白かったんだ。火サスと同じ、ただちょっと描写が物足りなかっただけ。角川ホラーがどのように執筆依頼しているのかはわからないよ、でもさ、クライアントの要求を実現するために、どんなに必要と思っても妥協し、削らなければならないこともあるじゃない。このシリーズがそれに当てはまるのかも何も知らないけどさ、おさまるべきところにきちんと収められるのも筆力だと思うんだ。

読みやすさが魅力のライト文芸、明るくて親近感の持てる主人公は万人受けするし、しつこすぎない場面説明はショッキングな表現があまり得意ではない方にもちょうどいい塩梅だと思う。肩肘はらずに読めるサスペンスは、読書時間をとりにくい現代においてありがたい娯楽だしね。私も折を見て、他の作品を手に取るかもしれない。