pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

小説感想まとめ 2019年02月

スイート・マイホーム/神津凛子

スイート・マイホーム (講談社文庫)
イヤミス」を超えた、世にもおぞましい「オゾミス」誕生。これが出版社の売り込み文句。加えて読書メーターのレビューには「こわい」「黒い家を彷彿とさせる」「まさにオゾミス」etc.ホラーミステリー好きの読みたい心をツンツンしてくるワードが並んでいた。

やたらリーダビリティがすごい、と評されていて、そもそもリーダビリティってなんじゃい、という話なのだが、可読性、ようするに読みやすいという意味の言葉らしい。これは万人受けするための大事な要素で、アメトーークの読書芸人を見て古井由吉に手を出した人が挫折するのはよくある話。書き手が何を言いたいのか理解する気持ちが必要なので、単に娯楽として楽しみたい人が手を出すと、読書が苦手になる。可読性はある意味、作家の親切だ。

確かに読みやすかったが、イヤミスを超えたオゾミスはハードル上げすぎでないの。序盤から深読みさせるような要素が次々と置かれ、ちんぷんかんぷんだった。最後も無理やりまとめた印象で、読み終わったあと何も残らなかった。第13回小説現代長編新人賞受賞作らしいし厳しい文字数制限があったとしても、ネタを詰め込みすぎて肝心の部分が物足りないってどういうことだい。でも花村萬月ベタ褒めしていたんだよなあ。。。

ヨコオタロウのブログでいつだったか、必要なのは削る力と書いていたのを思い出した。自分がいくら気に入った設定、キャラクターであったとしても予算、納期などと照らし合わせて切り捨てることができなければならない、そのようなことだったと思う。

 

殺人鬼フジコの衝動/真梨幸子

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)
女の見たくない部分を描くのがうまい。小学校時代のスクールカーストでいかに上部グループに食い込むかとか、若い恋は後先考えずのめり込みがちとか、女性なら黒歴史に共感できるんじゃないかなあ。

フジコ主観で語られていくうえ場面描写もあまりないから、脳内で自分の記憶の中から舞台を補完する必要はある。私は尾野真千子主演「フジコ」を先に観ていたから、映像とリンクさせながら読み進めることができた。男性は想像しづらい世界だし、マイナス票はそこらへんも関係あるかもしれない。確かにミステリとして読むと肩透かしくらう。

 

一八八八切り裂きジャック服部まゆみ(2002/3)

文庫にして800P近い長編と気づいたのは読み始めてからだった。ロンドンを震撼させた実在の猟奇殺人事件を織り交ぜたフィクション。読者は19世紀末ロンドンの絢爛と退廃の世界を主人公たちと巡ることになる。
一八八八 切り裂きジャック (角川文庫)
主題を切り裂きジャックとするなら序盤から中盤は余談の範囲だが、当時の幻想的な街並みや貧富による生活格差、グロテスクを芸術に昇華させたスッシーニのヴィーナス、異形の青年エレファントマンなど、切り裂きジャック以外にも興味を引く事柄がたくさんあり退屈する暇はない。あえてマイナス面を言うなら人物像が浮かばないところか。次々に登場してくるものの、イメージがぼんやりしていて見分けがつけられなかった。まあ、覚えられないのは最後まで「どなた様」でも差し支えない方々なので問題ない。

主人公の柏木は他国の文化に触れるうち、小説の魅力にとりつかれ物語の中に新たな自分を見出していく。本の魅力を熱く語る場面では、読者のみならず著者の想いを代弁していることが感じられ、嬉しい気持ちで共感できた。二人との旅を終わらせたくない自分がいて、4日を費やした読了のち、すぐ最初から読み直したくなってしまった。

 

神去なあなあ日常三浦しをん(2009/5/16)

神去なあなあ日常
将来の目標もなく日々を過ごしていた主人公・勇気が高校卒業後、神去村という田舎に放り込まれ、林業に従事する話。ポエマーでもある勇気の日記風に語られる文章は、若者らしくノリが軽くて楽しい。読んでいるときはかなりニヤついていたと思う。雄大な自然、仕事を楽しむ気持ち、淡い恋心も明るく描かれていてすがすがしい作品だった。

 

堪忍箱/宮部みゆき(1996/10)

堪忍箱 (新潮文庫)
短編集。宮部さんは時代小説のほうが圧倒的に好きなんだよなあ。「あかんべえ」のようにあやかしが登場することもなく、何かしらを抱えた人々の心の闇を描いていた。江戸時代である必要があるのか、と言われると悩む。結末を読者の想像にゆだねる終わり方が多く、好き嫌いは分かれそう。全8編、1日1編ずつ読んだ。それぐらいでちょうどいい本。

 

ゼツメツ少年/重松清(2013/9)

ゼツメツ少年 (新潮文庫)
重松さん、あんたって人は・・・! 包み込むように優しく語りかける著者に癒されたかったのに、やられた。いや、癒されたけど、涙ちょちょぎれるなんて聞いてない。次の日目をはらして会議にのぞみましたよ、ええ。軽々しく何かを言うのもはばかられる物語だった。構成がわかりづらいというレビューを見たが、素直に読み進めればそんなことはない。大事なのは想像力だ。

 

サンマイ崩れ/吉岡 暁(2008/7/25)

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)
表題作は第13回日本ホラー小説大賞短編部門受賞。「サンマイ崩れ」「ウスサマ明王」が収録されている。筆者の本はこれ以降出版されていないようだ。サンマイ崩れはクライマックスの激しさに圧倒されて、読了後しばし呆然としてしまった。ウスサマ明王は怨霊を特殊部隊が退治するB級映画じみた内容だが、過去と現在を順に追っていくうち真相がわかる構成になっていておもしろかった。明治頃の貧しい暮らしとか末代まで呪うとか密教とか特殊部隊とか、好きなものだらけの一冊だった。

 

かわいいサメ映画図鑑

かわいいサメ映画図鑑 (ライノブックス)
サメ図鑑ではなく、映画図鑑。かわいいイラストでジョーズからマイナー作まで、サメ映画をとことん紹介するサメ愛に溢れた1冊。サメの能力や考察が冗談半分、本気半分で紹介されていて、楽しんで書かれているのがわかる。「ジョーズ」のほかは「ディープ・ブルー」くらいしか知らなかったが、「トランスポーター」のアノ人が出ている作品もあるようだ。確かに彼なら体長23mのサメにも勝てるかもしれん。

 

嘘つきアーニャの真っ赤な真実米原万里(2001/6)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)
私の中の価値観や認識を見直すきっかけを得られた。「打ちのめされるようなすごい本」で話題になった著者が少女時代、チェコスロバキアプラハソビエト学校で出会った級友の消息を追った記録。聡明で思慮深い彼女に、私は打ちのめされた。彼女の思いを共有できたことに感謝したい。激動の時代、各国の子どもたちと過ごし、世界基準の教育を受けたことで彼女が形作られたのだとしたら、詰込み型教育から変わろうとしている日本の未来にも希望が見える。

 

男の!ヤバすぎバイト列伝/掟 ポルシェ

男の!ヤバすぎバイト列伝 (耳マン)
「俺はまだ本気出していないだけ」バブル期編。ヤバいバイトの話ではなく、著者がクズすぎてヤバかった青春時代のバイト話をまとめた一冊。表紙とタイトルに釣られて読んだが、ポルシェファン向けの本だった。多少の盛りはあるとしても、作中の著者があまりにあんぽんたんで読んでいて腹が立ってしまった。何てことのないエピソードも面白おかしくできる文才は確かにあるので、こいつまじクソだな、と笑い飛ばせる心の広い方なら楽しめると思う。

 

メドゥサ、鏡をごらん/井上夢人

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)
夜中に読み始めて徹夜してしまった。謎のメッセージを残して自殺した作家の死の真相を追ううち、恐怖が侵食してくる。フロに入っているとき思い出して鳥肌がたってしまうほど怖かった。序盤はサスペンス、中盤からホラー。少々描写がしつこいと感じる部分は、嫌な女が過ぎる主人公の彼女と併せて、軽く読み飛ばした。何点かわからないままの設定について、解説があったら読みたい。kindleだとあとがきがないのだ。

 

世にも奇妙なマラソン大会/高野秀行

世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)
破天荒きわまれり。著者がサハラのマラソン大会に参加した話。ナスDの登場で破天荒な人というジャンルはメジャーになったが、この高野氏も相当なもんだった。こういう人がいてくれるからTVでマイナーな国の特集を見ることができるありがたさ。自分には絶対にできない生き方だ。

ラソン大会以外の短編エピソードも収録されている。異国の地で、初対面のゲイ疑惑のある人の家に泊りに行った話、ある事情から国外退去となった国に再び入るため奔走した話など、短いながらも内容は十分濃かった。

 

椿山課長の七日間浅田次郎

椿山課長の七日間 (朝日文庫)
突然死んでしまった椿山課長が7日間だけ現世に戻って心残りを清算するお話。壬生義士伝を読んだときも思ったのだが、著者が書く文章は、学級委員長のイメージ。きっちりまとめて泣きどころもはずさない。だが、完璧な物語には山も谷もなく、いや、実際はあるのだろうが感性のニブい私は気づかないほどの小山なので、ちと物足りなかった。なお、私が尊敬する聡明な方は浅田作品しか読まない。

 

竜が最後に帰る場所/恒川光太郎

竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)
現実に疲れたらやっぱり恒川。幻想と現実のはざまを描く短編集は、読み始めたとたん読者を異世界へ誘ってくれる。「風を放つ」は若干の消化不良を感じたものの、「鸚鵡幻想曲」「ゴロンド」は雄大な景色が目の前に広がり、家にいながら大自然に解放される感覚に満たされた。

 

第三の時効横山秀夫

第三の時効 (集英社文庫)
F県警捜査第一課の渋い面々が活躍する興奮必須の短編集。警察物が読みたくて引っ張り出しての再読だ。横山先生、F県警シリーズまた書いてくださいませんか。

この本に登場する刑事を想像する。思い浮かんでくるのは、かっぷくのいい中年、毛穴の目立つ中年、メガネを掛けてひょろりとした温水さん、つまりイケメンは絶対浮上してこない。だけど、かっこいいんだ。信念をもっている人はそれだけで男前ってことさ。犯人を追い詰める彼らの執念にわくわくした。

 

かのこちゃんとマドレーヌ夫人/万城目学

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (角川文庫)
小学校一年生のかのこちゃんと怜悧な猫のマドレーヌ夫人、一人と一匹を中心に起こる日常の小さな出来事と、ちょっと不思議な物語。動物が出てくる時点で予感はしていたが、案の定号泣してしまった。終盤でマドレーヌ夫人がかのこちゃんのために疾走する場面、これはだめだ。悪人が一人も出てこないし、まわりの大人たちもみんな優しくて、子どもでも安心して読める。かのこちゃんはこのまままっすぐに育ってほしい。

 

新宿鮫1/大沢在昌

新宿鮫~新宿鮫1 新装版~ (光文社文庫)
音もなく近づき、不意に襲い掛かってくる恐れから「新宿鮫」と渾名される新宿署一匹狼刑事・鮫島。シリーズの第1段をチャレンジ3回目にしてやっと読了することができた。考えるべき謎もないし、話自体はスラスラ進む。だけど、主役の多重人格が気になって集中しきれないの。シリーズ化しているほどの作品だし主人公のキャラ設定は命だと思うのだが、硬派でクールな男が憧れる男にしたかったのか、普段はチャラいがやるときはやる男にしたかったのか、読み進むにつれ鮫島像がブレるんだ。彼女・晶の存在もその一因。辟易するほどのしつこいロケットおっぱい推しは、作者の性癖として受け入れるしかないのか。

 

政治的に正しい警察小説/葉真中顕

政治的に正しい警察小説 (小学館文庫)
罪山罰太郎こと、ハマナカ先生の短編集。いつの間にか作家デビューをされていて驚いた次第。今は閉鎖されてしまった罪山名義のブログは大変興味深く拝見しておりました。「秘密の海」は設定もありきたりだし無理を感じたが、「カレーの女神様」「政治的に~」は勢いとユーモアセンスあふれる秀作。Ω(オメガ)意識高い系で吹きだしてしまった。全編、カギとなる言葉が強調されていたのは不要だったかな。

 

猥談ひとり旅/カレー沢薫

猥談ひとり旅
本人の体験談ではなく、古今東西のエロネタに著者がツッコむコラム集。もはや説明不要、くだらなさに笑うための本。著者の言葉選びはいつもシャレがきいていて楽しい。日本は平和だ。

 

閉鎖病棟/帚木蓬生(1997/4/25)

閉鎖病棟(新潮文庫)
山本周五郎賞受賞作。著者は精神科医でもあるとのこと。表紙とタイトルから感じる重苦しさとはうらはらに、明るく前向きに生きていく人々の姿がさわやかに描かれていた。辛い過去を抱え、精神病院という限られたコミュニティにいながらも変わっていく彼らの姿は、人はいつでも、何度でも生きなおすことができるのだと教えてくれた。映画化もされたんだっけ。読んでよかった、素直にそう言える。

 

陰の季節/横山秀夫(1998/10)

陰の季節 D県警シリーズ
TVドラマ化もされたD県警シリーズ。短編ながら1作ごとのクオリティは高い。天下りにかかる人事、監査部門への密告、男性社会における女性蔑視、県議会対応における根回しを取り上げている。舞台が警務部であることから事件が必ず起きるわけではなかったが、駆け引きや打算、身内に対する情が複雑に絡み合い、ビジネスドラマ的要素も楽しむことができた。

 

ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査/深見真(2016/12/22)

ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 (角川文庫)
抜群の検挙率を誇る麻布警察署刑事課二係。仙石警部補率いるチームが不正に手を染めているとの情報から潜入捜査官として配属された細川瑠花。違法な手段も辞さず犯人を追う仙石の姿を目の当たりするが、正義と悪のはざまでゆらぐ間もなく事件は起こる。

ライトノベルも執筆されている深見真。「ゴルゴタ」同様エンターテイメント色が強く、どちらかと言えばライト文芸寄り。考えることなく手軽に読める。ゴア表現もあるのに軽く読めるなんて言うのはよくないか。圧倒的強者の仙石による勧善(?)懲悪で、スカッとなる小説だった。

 

村上海賊の娘/和田竜(2013/10/22)

村上海賊の娘(一~四)合本版(新潮文庫)
本屋大賞を受賞し、コミックス化もされた歴史長編。これだけの長丁場ながら場の転換や話運びに淀みがなくて、読みやすい。執筆前の脚本づくりに年単位の時間をかけただけのことはある。時代物だがセリフや人物像が現代的で、物語にすんなり入りこめる。敵方であろうと見せ場を用意するのは筆者のこだわりらしく、一人ひとり個性的に描かれていたので、登場人物を覚えられないことはなかった。途中、余談的に注釈がたくさん入ったが、テンポを大事にしたいし読み飛ばしていいよね、すまん。

内容は、石山合戦のうち天王寺の戦いから第一次木津川口海戦までが描かれていた。鬼手が発動する場面で最高潮に達したのちの海上戦はやや冗長に感じたが、余韻の残るいい終わり方だった。

 

昨日のカレー、明日のパン/木皿泉(2013/4/22)

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)
TVドラマ化され、上記の村上海賊の娘本屋大賞をとった年、2位だった作品。「木皿泉」は夫婦で共作されるときのペンネームらしい。途中まで読んだのだが、うーん、ページを繰る手が進まない。のんびりとした空気感の作品は、今の自分には合わないのかもしれない。