pu-log’s diary

たくさんの物語と出会うことを今年の目標とする。

小説感想まとめ 2019年03月

犯罪者/太田愛(2012/9)

犯罪者【上下 合本版】 (角川文庫)
綿密に計算されたプロットにスキはなかった。TV「相棒」シリーズの脚本を手掛けた著者の作家デビュー作。通り魔事件に巻き込まれ九死に一生を得た少年が、次々と犯罪に巻き込まれるクライムサスペンス。登場人物それぞれの話が時系列ばらばらに始まる序盤はわけがわからないが、中盤から断片的だったピースが徐々にはまっていき、あっという間に読み終えた。脚本業を経験された方は、やはりはずさない。シリーズの続きも読みたくなった。

 

祇園怪談/森山 東(2012/2/25)

祇園怪談 (角川ホラー文庫)
山本タカト氏のお耽美な表紙が目を引く本作は、祇園南の老舗お茶屋「夕月」で起こる怪異を描く連作短編。心霊ホラーとサスペンスホラー両方の要素を味わえ、久しぶりに求めていた怖さに出会えた気がした。連作で、前話のその後が次の話でわかるのもよい。古都の情景や、艶やかさの裏にある女の闇が目に浮かぶ良作だった。嫉妬が破滅を呼ぶ「死業式」、タイトル通りの「赤子三味線」がお気に入り。

 

夜の写本師/乾石 智子(2011/4)

夜の写本師 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ
日本にも重厚なファンタジーを書く作家がいることに驚きを覚えた。主人公カリュドウと闇の魔道師の1000年にわたる因縁を描くダークファンタジー。暗くも美しい悠久の世界を著者と旅するには想像力をフル稼働しなければならなかったが、読み終えたあとは、ため息。満たされるとはこういうことなのか。近年の空想小説は海外翻訳ものや、何かにつけて転生して異世界に行ってしまう人たちばかりと思いこみ、美しい表紙にひかれつつ中々手を出せずにいた。思い込みでスルーしなくて本当に良かった。著者の他の作品も読みたくなってしまうが、今はカリュドウたちの物語を大事にしたい。しばらくは手を伸ばさないでおこう。

 

出星前夜/飯嶋和一(2008/8/1)

出星前夜 (小学館文庫)
島原・天草の乱を史実に沿って描いた歴史小説。過酷な年貢取り立てに端を発した百姓一揆を宗教弾圧への反抗にすり替えるため、四郎は利用された。学生時代にこの本を読んでいたら、歴史が好きになっていたかもしれない。そう思うほどよく考えられた内容だった。粛々と綴られる飯島氏の文章は堅めでとっつきにくかったが、生々しい戦場の場面や義民だった彼らが隆起にいたった心の動きは、実際そうだったのだろうなと思わせる説得力があった。

 

無戸籍の日本人/井戸まさえ(2016/1/4)

無戸籍の日本人 (集英社文庫)
身分の安定、日本でこの言葉を聞くとは思わなかった。戸籍がないために義務教育すら受けられなかった人がいる。ねほりんぱほりんで存在を知って読んでみたが、彼らがおかれている状況の深刻さを認識することができた。救済が非常に困難であること、戸籍が社会生活においていかに重要であるかなど、わかりやすく解説されていた。自治体によって差はあるだろうが、保険はダメでも生活保護や障害者年金は戸籍がなくても受けられるらしい。腑に落ちない点も多々あったが、記録として綴られていると理解し個人的意見は控えておく。

 

ジャッジメント/小林由香(2016/6/23)

ジャッジメント (双葉文庫)
これがデビュー作って本当ですか?(何度目)犯罪の加害者に報復できる「復讐法」が制定された日本を舞台にした連作短編。全5編なのだが、余談を挟まず刑の執行のみで1話が構成されているため、退屈しない。すごく読みやすいし先が読みたくなる、これが噂のリーダビリティというやつか。心情描写が巧みで当事者の葛藤もよく描かれているが、5パターンもあるのにきれいごとに走りすぎと思うのは私の闇深さゆえか。TVドラマにもできそう、でも規制、規制の地上波では無理だろうな。

 

狐笛のかなた/上橋菜穂子(2003/11/14)

狐笛のかなた(新潮文庫)
狐と人の恋だって? 最高じゃないか。著者のファンタジー小説の中でも、ファンの間で評価が高いらしい本作。ひたむきに生きる霊狐の野火と、不思議な力を持つ小夜の物語を読み終えて、なるほど納得。

私はネタバレしてもいい小説と絶対にしてはならない小説があると思っているが、これは前者だと認定してはっきり言う。最後はめでたし、めでたし。日本の原風景を思わせるなつかしさと、人を想う純粋な気持ちに溢れたやさしい物語だった。

 

聖母/秋吉理香子(2015/9/18)

聖母 (双葉文庫)
警告、レビューを見たらいけない。自分が書いていることがネタバレになっているって気づいていない人が大すぎる。

 

タルドンネ 月の町/岩井志麻子(2006/11/1)

タルドンネ 月の町
作中で著者自身「湿った官能的な小説を書く割には雑駁な陽性の助平と笑われている」と言っているとおり、いつも通りの猟奇とわいせつが詰め込まれていた。だが、彼女の綴る上品な文章にエログロという言葉は似合わない。

実在の連続殺人事件を基にしたフィクション。岩井さんは仁哲に劣情を抱いたのだろうな、と想像する。殺人鬼・仁哲の人物像はもちろん作者によるところが大きいが、作中に著者を連想させる小説家を登場させることで現実との距離を近づけ、破壊衝動の先にある破滅を望む仁哲の美しさに真実味を与えていた。ネットで見た実在のタルドンネは、壊れかけた家が段々に連なる淋しい町だった。この殺伐とした空気が仁哲の乾いた心を育んだのだろうか。